森林保護(読み)しんりんほご(英語表記)forest protection

改訂新版 世界大百科事典 「森林保護」の意味・わかりやすい解説

森林保護 (しんりんほご)
forest protection

気象災害,病虫害,鳥獣害,山火事などの災害から森林を守ること。森林が木材を生産する経済的効用のほかに,災害防止,観光および保健休養利用などの公益的効用をもつことは一般に知られているが,これらの効用を十分に発揮するためには,森林が健全な状態になければならない。とくに,森林が山火事などによって失われると,直ちに造林したとしても,前記の効用をそなえる森林に生育するまでには,数十年の年月を必要とする。したがって,各種の被害から森林を保護することは,林業経営だけでなく,国土保全,レクリエーション利用のためにも欠かせないことである。

各種の被害に共通な予防的方法として健全な森林の造成がある。針葉樹と広葉樹それぞれ樹齢の異なる樹木が混在する森林は最も健全であり,こうした森林を造成維持することは,各種の災害から森林を守る最善の手段である。しかしながら,一般には木材生産を目的とし,一度森林を伐採してから目的とする樹種を植林するので,とくに幼時には被害をうけやすく,りっぱな森林になるまで多くの災害をうける危険がある。災害のおもなものを次にあげる。(1)気象災害 強風,豪雨,豪雪,低温などの異常気象による風倒,山崩れ雪折れ凍害などの被害は,伐採が一つの要因となって起こることが多い。したがって,伐採区域の分散,択伐方式の採用など伐採方法への配慮によって被害を軽減することができる。雪害には適切な枝打ちの実施や枝張りの少ない品種をえらんで造林することが有効である。幼齢林の凍害,寒風害防止には覆土などの方法がある。また,樹下植栽や複層林施業などによっても気象災害が防除できる。(2)病虫害 各種菌類やウイルスの寄生によって発生するスギ赤枯病,カラマツ先枯病などの樹病や食葉性害虫のマツカレハマイマイガ,せん孔性害虫のいわゆるマツクイムシ(松食虫),吸汁性害虫のアブラムシなどの虫害は,一度大発生があると,周囲の健全な森林まで被害を受けるため,薬剤による防除,天敵微生物を用いる生物的防除,被害木の伐倒・剝皮・樹皮の焼却を含む総合防除などを行う。マツクイムシ,カラマツ先枯病など特定の病虫害に対しては〈森林病害虫等防除法〉の適用があり,国の補助によって防除が行われる。(3)動物による害 獣害は10年未満の造林地でしばしば問題になるが,ノネズミ,ノウサギなどの小動物は,天敵動物による捕食,わなによる捕殺,薬殺などの対策がある。カモシカは自然保護の見地から射殺が許されないので食害防止が難しい。(4)山火事 水利の悪い場所で発生することが多く,短時間に大きな面積に被害を与えるので,防火線の整備,火気使用の規制,早期発見体制の整備など事前の措置がたいせつである。以上(1)~(4)の被害のうち気象災害と山火事については,損害を補償する森林保険がある。

〈森林国営保険法〉にもとづき,森林の火災,気象災および噴火災を対象として国が行う保険で,各種の森林保険のうち最も普及し,全国の人工造林地の1/3程度が加入している。火災,風害,水害,雪害,干害,凍害,潮害,噴火災により保険金が支払われる。幼齢林の場合は造林費用,その他の場合は立木の価格をもとに樹種,樹齢別に保険料,保険金の標準額が定めてある。類似の保険に,全国森林組合連合会が扱う森林災害共済制度がある。また,民間の保険会社が行う森林火災保険は山火事による損害だけを対象としている点が国営保険と異なる。
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百科事典マイペディア 「森林保護」の意味・わかりやすい解説

森林保護【しんりんほご】

森林災害を予防,駆除すること。生物害,気象害,人為の害などをその対象とするが,近代的な森林保護はもっぱら生物害を対象とする森林防疫的性格になってきている。生物害の原因は非常に複雑で鳥獣,昆虫,ダニ,軟体動物,線虫などを含む動物,つる植物,寄生植物を含む植物,バクテリア,ウイルスなどを含む微生物など広範囲にわたる。そしてこれらは森林動物学,森林昆虫学,樹病学,木材腐朽学などの専門分野で取り扱われている。保護の方法には殺虫剤,殺菌剤などを使用する薬剤防除(直接防除)法と植栽,保育などにより森林の環境状態を改善して林木の抵抗性を高める間接防除法とがある。後者は生態防除法ともいわれ,近年注目されてきた。
→関連項目森林認証制度

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