家庭医学館 「がんの漢方療法」の解説
がんのかんぽうりょうほう【がんの漢方療法】
漢方薬ががん治療に与える重要な役割が広く認められるようになりました。
漢方療法は、がんを攻撃したり病巣の除去をめざすものではありません。
そのため、他の治療法で用いられる多少の毒性や副作用のある薬剤は選ばれず、比較的からだにやさしい薬剤を選んで、体調を整えるようにします。がんに対する直接効果は小さくても、人体の免疫(めんえき)、代謝(たいしゃ)、栄養などさまざまな機能に作用してがんを封じ込めようとする治療法です。
●免疫力(めんえきりょく)を高め、がん細胞を抑える
漢方薬は、血液中の免疫を担当する細胞であるマクロファージやリンパ球などを刺激して、がんに対する攻撃能力を高めます。また、それらの免疫担当細胞に作用してサイトカイン(「がんの免疫療法」の今後、期待される免疫療法)という生理活性物質の生成を促します。サイトカインには、免疫力を活性化したり、がん細胞を直接殺傷する作用があります。
このような効果をもつ漢方薬には、小柴胡湯(しょうさいことう)や十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、人参湯(にんじんとう)などがあります。小柴胡湯によって、肝硬変(かんこうへん)から肝がんの発生する頻度(ひんど)が低くなったという報告もあります。
●他の療法を補助する
漢方薬だけで、大きながんの腫瘤(しゅりゅう)(かたまり)を消失させることはできませんが、手術や放射線、抗がん剤などでがんが縮小した後、漢方薬で補助する集学的治療(しゅうがくてきちりょう)が有効となります。
他の療法の治療効果を維持し、再発を予防し、体力を回復するのが漢方療法の役割です。これによって治療効果が高まり、生存率もあがります。
●全身状態を改善する
がんにかかると、転移(てんい)とは関係なく、からだ全体ががんの性質に染まり、がんが増殖しやすい環境になるのではないかと考えられています。そのため、だんだんと、疲れ、体重減少、食欲不振、貧血、むくみ、体力低下などの症状が現われ、末期の悪液質(あくえきしつ)(栄養摂取の機能障害による全身状態の悪化)になる方向へと変化していきます。
漢方薬は、これらの全身状態を改善し、がんが増殖するのに不適な状態をつくる効果があると考えられます。
●末期がんの症状を緩和する
がんの末期には、患者さんはいろいろな苦痛を訴えるようになります。がんの疼痛(とうつう)に対しては、経口(けいこう)モルヒネ、神経ブロック、放射線照射などの利用で、対処法がだいぶ確立されてきました。しかし、漠然(ばくぜん)とした痛みやだるさ、いらいら、食欲不振など、やりきれない不快な症状を改善し、患者さんのQOL(生活の質)を保つために、漢方薬が効果があります。
●他の療法による副作用を軽くする
手術後の回復を早めるのに、十全大補湯や補中益気湯(ほちゅうえっきとう)が有効です。抗がん剤による吐(は)き気(け)、食欲低下、白血球の減少などの副作用には、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)、補中益気湯、人参養栄湯(にんじんようえいとう)などが効果があります。放射線照射による血便(けつべん)、血尿(けつにょう)などの副作用には小柴胡湯などが有効ですし、吐き気や下痢(げり)などの胃腸症状にも漢方薬がよく使われます。