キナノキともいう。南アメリカのアンデス山脈に自生するアカネ科キナ属の薬用樹木で,約40種を含む植物群のうち,類似した数種が利用される。樹皮をキナ皮(英名Jesuit's bark,cinchonae cortex)と呼び,それから得られたキニーネは熱病,とくにマラリアの特効薬として知られている。古くからインカ人がその樹皮をキナ・キナquina-quina(kina-kina)と称して熱病に用いていた。17世紀の初めにその効用が知られたキナ皮は,初め原産地の天然樹からとられていたが,スペイン総督夫人のマラリアを治療して以来,ヨーロッパで有名になり,しだいに絶滅の危機にさらされ,価格が高騰した。このため,19世紀になってヨーロッパ各国は自国の植民地で栽培することに努め,オランダが1854年にインドネシアのジャワで移植に成功した。その後,インド,ビルマ(現,ミャンマー),セイロンなどでも栽培され,第2次世界大戦前には世界のキナ皮の90%以上がジャワで生産された。その後は中南米やアフリカの生産量が増加している。
常緑の低木または高木,枝の味は苦い。葉は対生し有柄,質は厚い。花は放射相称で5数性,枝の先に多数集まって円錐形となる。花冠は筒状漏斗形,長さ6~17mm。子房は下位で2室。果実は紡錘形,長さ10~35mm,裂開し,翼のある小さな種子を多数出す。産業的に重要なものとして数種が栽培される。アカキナノキC.succirubra Pav.(英名red cinchona)は20mほどになる高木で,名前のように枝が赤みをおび,葉は楕円形で大きく,花冠は淡紅色で,先は赤く,外面に毛が密生する。ボリビアキナノキC.ledgeriana(Howard)Moens(英名ledgerbark cinchona)は高さ4~10mの小高木。枝は短毛があり,樹皮は黄色。葉は長楕円形,花冠は黄白色で香りが強い。ほかにもC.officinalis L.,C.calisaya Wedd.などの種が薬用にされる。現在は生長のよいアカキナノキを台木とし,キニーネ含量の最も多いボリビアキナノキを接木して栽培されることが多い。
キナの栽培は標高1000~2000mの熱帯高地でおこなわれ,降雨量は年2500mm以上の多雨地帯で,しかも排水の良い土壌が適している。増殖は実生によりおこない,4~5年目から伐採を始め,樹皮を採取できるが,7~8年生樹がキニーネの含量が最大となり,14~15年を過ぎると低下する。またキナ皮の採取は根もとから掘りおこし,根,幹,枝に分け,木づちでたたいてから樹皮をはぎとることや,生木の樹皮を部分的にはぎとることもおこなわれる。キナ皮はキニーネ,シンコニンcinchonine,キニジンquinidineなど多数のアルカロイドを含むが,毒性はキニーネが最も強い。原形質毒で細胞に作用し,少量では機能を亢進し,多量だと死ぬ。またキナタンニン,キナ酸,デンプン,樹脂,色素などを含有し,粉末にしたキナ皮末を薬用とする。マラリアの治療には,このキナ皮粉末や,抽出したキニーネの塩類(主として塩酸キニーネ)が使われる。強壮剤,苦味健胃薬,解熱,鎮痛剤としても使われる。第2次大戦中に,いくつかの合成抗マラリア剤がつくられたため,キナの重要性は一時減少したが,合成薬には副作用の強いものがあり,現在でもキニーネが重用されている。
執筆者:福岡 誠行+新田 あや
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