超伝導状態における永久電流を利用したコンピュータ用のスイッチング素子。1956年にマサチューセッツ工科大学のバックD. A. Backが、この素子で記憶装置などを構成すれば、超伝導コンピュータができることを提案し、極低温cryogenicsで動作することから、それにちなんでcryotronと名づけられた。
最初のクライオトロンは、タンタル線の周りにニオブ線を巻き付けたもので、ニオブ線に流れる電流がある値を超えると、電流の発生する磁界によってタンタル線が超伝導から常伝導状態に転移する。タンタル線が用いられるのは、タンタルの臨界温度(絶対温度で4.5K)がニオブの臨界温度(絶対温度で9.3K)より低く、常伝導状態に転移しやすいことによる。タンタル線にゲート電流を通じておけば、タンタル線はゼロ電圧、あるいは有限電圧のどちらかの状態をとることになるので、簡単な構造でもスイッチング素子として機能する。しかし巻線を用いているので、インダクタンスが大きくなり、スイッチング時間を50マイクロ秒より短くできなかった。その後、スイッチング素子を短くするために薄膜形のクライオトロンが考案された。しかし薄膜形も転移に伴う潜熱の熱伝導の時間が問題となり、スイッチング時間は14~40ナノ秒を要した。この値は半導体素子のスイッチング時間より遅く、しかも液体ヘリウム温度(絶対温度で4.2K)に冷却するコストを考えると、他の半導体素子に比べて実用的な優位さはなく、一時は大きな話題をよんだが、製作は立ち消えになった。
[川邊 潮]
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