日本大百科全書(ニッポニカ) 「クレル鉱」の意味・わかりやすい解説
クレル鉱
くれるこう
clerite
硫塩鉱物の一つ。1996年にロシア、ウラル地方のボロンツォフスコエVorontsovskoye金鉱床から発見された新鉱物である。ベルチェ鉱のマンガン(Mn)置換体に相当する。両者は同構造で中間物もある。自形未報告。浅~深熱水性鉱脈型金・銀鉱床に産する。日本では島根県鹿足(かのあし)郡津和野(つわの)町豊稼(とよか)鉱山(閉山)の熱水性金・アンチモン鉱床から確認されている。
共存鉱物は豊稼鉱山では菱(りょう)マンガン鉱、黄鉄鉱などで共存する硫化物の種類は少ないが、原産地では、鶏冠石(けいかんせき)、辰砂(しんしゃ)、輝安鉱、自然金、グリグ鉱、閃(せん)マンガン鉱、含ヒ素黄鉄鉱as-bearing pyrite(Fe(S,As)2)、方解石など比較的低温鉱物との共生がみられる。新鮮なものはベルチェ鉱と区別がつかないが、条痕(じょうこん)はやや褐色味を帯び、錆(さ)びが虹色にならず、全体的に黒っぽい表面となる。命名は帝政ロシア時代、ロシア鉱物学会名誉会員であったオニシム・イェゴロビッチ・クレルOnisim Yegorovitsch Kler(1845―1920)にちなむ。
[加藤 昭 2016年8月19日]