日本大百科全書(ニッポニカ) 「クロソウスキー」の意味・わかりやすい解説
クロソウスキー
くろそうすきー
Pierre Klossowski
(1905―2001)
フランスの作家、思想家。画家を両親としてパリに生まれる。父は美術史家でもあり、作家のジッドやリルケと親交があった。画家バルチュスは実弟にあたる。一時期、聖職者を志して神学を学び、ドミニコ会に入るが1945年には世俗の生活にもどった。他方で1930年代からさまざまな文学者、芸術家たちと交流し、とりわけジョルジュ・バタイユの影響を受ける。1947年に刊行された『わが隣人サド』は20世紀におけるサド復権の里程標となった作品であり、同時にクロソウスキーの思想的転回を画すものとなった。この神学からサド研究への移行が示すように、クロソウスキーは異端に魅せられたカトリックであり、エロスの誘惑と神秘主義を混在させた作家である。小説の代表作は『ロベルトは今夜』(1953)、『ナントの勅令破棄』(1959)、そして『プロンプター』(1960)からなる『歓待の掟(おきて)』三部作であろう。パリの上流ブルジョア社会を背景にしたこの三部作では、女主人公ロベルトが夫オクターブが見ている前で行きずりの男たちに身を任せる。やがて代議士になってからも、未知の男を挑発的なポーズで誘惑しようとするが、快楽が彼女の目的ではない。そしてエロティックな場面と交錯するようなかたちで、しばしば難解な宗教的議論が繰り広げられる。オクターブのほうは、ある19世紀の画家の作品を分析しながらそれを再現しようとする。ほかには、小説『バフォメット』(1965)、評論『かくも不吉な欲望』(1963)、『ニーチェと悪循環』(1969)などがある。また映画にも関心を示し、『歓待の掟』に基づいて製作された映画に自らオクターブ役で出演したこともある。
[小倉孝誠]
『小島俊明訳『肉の影』(1967・桃源社)』▽『小島俊明訳『かくも不吉な欲望』(1969・現代思潮社)』▽『小島俊明訳『バフォメット』(1985・ペヨトル工房)』▽『若林真・永井旦訳『歓待の掟』新装版(1987・河出書房新社)』▽『豊崎光一・宮川淳訳『ディアーナの水浴』(1988・書肆風の薔薇)』▽『兼子正勝訳『ニーチェと悪循環』(1989・哲学書房)』▽『千葉文夫訳『ローマの貴婦人――ある種の行動の祭祀的にして神話的な起源』(1989・哲学書房)』▽『豊崎光一訳『わが隣人サド』(1991・晶文社)』▽『清水正訳『ルサンブランス』(1992・ペヨトル工房)』▽『兼子正勝訳『生きた貨幣』(2000・青土社)』▽『ミシェル・フーコー著、豊崎光一訳『外の思考――ブランショ・バタイユ・クロソウスキー』(1978・朝日出版社)』▽『アラン・アルノー著、野村英夫・杉原整訳『ピエール・クロソウスキー』(1998・国文社)』