フランスの画家、版画家。サンスに生まれ、同地の大聖堂のステンドグラスの画家として1530年来知られる。1538年ごろからパリに在住し、タペストリー、ステンドグラスの下絵を描き、多くの版画の制作や、著作も行っている。アンリ2世のパリ入城の際には、ジャン・グージョンとともに凱旋(がいせん)門の装飾に携わる。油彩は『エバ・プリマ・パンドラ』(ルーブル美術館)などわずかな作品が彼に帰せられるだけである。しかし、フランス・ルネサンスの画家としての彼の名声は高く、バザーリによっても記されている。フォンテンブロー派と同時代であり、ロッソ・フィオレンティーノなどの影響も若干認められるが、独自にその道を開いたものと思われる。同名の息子(1522ころ―1594ころ)も画家、版画家。
[中山公男]
フランスの哲学者。パリ生まれ。ソルボンヌ大学で哲学を講じ、のちエコール・ノルマル・シュペリュール(高等師範学校)校長。1830年からの七月王政のもとで貴族院議員や文部大臣などを務めた。ライプニッツに由来する彼の座右銘「諸体系はそれらが肯定することによって真であり、それらが否定することによって偽である」の示すごとく、彼の哲学は、先人たちの肯定する諸学説を相互に矛盾なく総合、統一することを目ざす折衷主義である。その体系は、デカルト、メーヌ・ド・ビラン、スコットランド学派、ドイツ観念論(とくにヘーゲル)などの折衷であり、感覚論、観念論、懐疑主義、神秘主義などの諸要素を含む。『近世哲学史講義』5巻(1841~1846)によって、フランスに初めて哲学史の領域を確立したことでも知られる。『真善美について』(1853)などの著書がある。
[足立和浩 2015年5月19日]
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フランスの画家。同名の子と区別するため〈父クーザンJean Cousin le Père〉と呼ばれることもある。測量師として生地サンスで活動したのち,1538年ころパリに赴き,タピスリーやステンド・グラスの下絵や版画制作をはじめる。49年グージョンとともにアンリ2世のパリ入市式典の装飾を行い,そのテーマのひとつを用いて《エバ・プリマ・パンドラ》を描いた。彼の名声は外国にまで及び,バザーリの《芸術家列伝》初版(1550)にも言及されている。彼に帰せられる作品は少ないが,寓意画,肖像画など数点存在する。フランス・ルネサンスの代表的画家の一人で,北方版画の影響に加えて,フォンテンブロー派とくにロッソ・フィオレンティーノの強い影響を示しながら,自己の様式を確立した。《遠近法の書》(1560),《画法の書》(1571。子に引き継ぐ)の著作ものこす。今日でも子クーザンJean Cousin le Fils(1522ころ-94ころ)の作品との確実な識別は困難とされている。子クーザンの代表作とされるものに《最後の審判》(1585ころ)がある。
執筆者:冨永 良子
フランスの哲学者。ロアイエ・コラールとメーヌ・ド・ビランに学び,エコール・ノルマルやソルボンヌで教えた。カントやヘーゲルなどのドイツ哲学に学ぶとともに,師のロアイエ・コラールにも影響を与えたスコットランド常識学派の説をもとり入れ,これらとデカルト以来のフランス哲学の伝統を結合して,ソルボンヌ講壇哲学の主傾向となる唯心論的折衷主義を唱えた。またフランスではじめて哲学史研究の分野をひらき,《近世哲学史講義》(1841)は主著の一つである。彼はまた政治家として七月王政下で国務院顧問官や教育大臣をつとめ,アカデミー・フランセーズ会員となった。
執筆者:荒川 幾男
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… 19世紀以来の唯美主義は観念的美の世界と悪魔的な官能美への惑溺,すなわちデカダンスdécadenceの二極を絶えず往復しているが,これはスウィンバーンに影響を与えたフランスの文学者ゴーティエやボードレールに始まる。前者は,いわゆる〈芸術至上主義〉,すなわち〈芸術のための芸術l’art pour l’art〉(命名は1845年,V.クーザンによる)の唱道者として知られ,効用性を超越した自律的な美を主張した。のちに彼は《文学的肖像と回想》(1881)で,様式としてのデカダンスを〈このうえない成熟に達した芸術であり,輪郭がきわめて曖昧(あいまい)でつかみにくいものを表現しようと格闘し,腐敗した情熱の死にぎわの告白や妄執のもたらす狂気寸前の幻覚を伝えようとするもの〉と定義,唯美主義の到達した極点を示した。…
※「クーザン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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