クーザン(読み)くーざん(英語表記)Victor Cousin

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「クーザン」の意味・わかりやすい解説

クーザン
Cousin, Victor

[生]1792.11.28. パリ
[没]1867.1.13. カンヌ
フランスの哲学者。 1815年ロワイエ・コラールの助手としてソルボンヌ大学哲学史を講じる。 20年反政府活動のかどソルボンヌを追われ,24年ドレスデンで捕えられ半年の牢獄生活をおくる。 28年大学に復帰,哲学史を講じて空前の人気を博する。 30年の七月革命によって多くの要職が与えられる。 31年ドイツを視察して教育制度に関する有名な報告を書き,それは 33年の F.ギゾーの画期的な初等教育改革に結実し,40年には教育相となった。やがてナポレオン3世の登場とともに 48年引退して著作と研究に専念した。彼はフランスの大学で初めて哲学史を講じた人であり,その講義録には『哲学史講義』 Cours d'histoire de la philosophie (3巻,1829) ,『近世哲学史講義』 Cours d'histoire de la philosophie moderne (5巻,41~46) ,"Cours d'histoire de la philosophie morale au XVIIIe siècle" (4巻,39~42) などがある。彼の哲学は唯心論的形而上学で,意識を知情意に3分し,それぞれに真美善の問題を対応させるが,3者は独立したものではなく同一であるとする。この統一性を具体的に提示するのが芸術であり,最高の芸術たる詩は人間の全能力の総合である。これが主著真・善・美について』 Du vrai,du beau et du bien (36) の思想中核である。

クーザン
Cousin, Jean

[生]1490. サンス
[没]1560/1561. パリ
フランスの画家彫刻家,版画家。フランス歴史画の祖。サンス大聖堂のステンドグラスなど,主としてガラス絵によって知られる。『イブ最初の女』 Eva Prima Pandora (1550頃,ルーブル美術館) はクーザンの作品といわれる。木版画も多い。著作は『遠近法論』 Traité de perspective (1560) 。『肖像画の本』 Livre de pourtraicture (1571) は同名の息子 (1522~94) が完成。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「クーザン」の意味・わかりやすい解説

クーザン(Victor Cousin)
くーざん
Victor Cousin
(1792―1867)

フランスの哲学者。パリ生まれ。ソルボンヌ大学で哲学を講じ、のちエコール・ノルマル・シュペリュール(高等師範学校)校長。1830年からの七月王政のもとで貴族院議員や文部大臣などを務めた。ライプニッツに由来する彼の座右銘「諸体系はそれらが肯定することによって真であり、それらが否定することによって偽である」の示すごとく、彼の哲学は、先人たちの肯定する諸学説を相互に矛盾なく総合、統一することを目ざす折衷主義である。その体系は、デカルト、メーヌ・ド・ビラン、スコットランド学派、ドイツ観念論(とくにヘーゲル)などの折衷であり、感覚論、観念論、懐疑主義、神秘主義などの諸要素を含む。『近世哲学史講義』5巻(1841~1846)によって、フランスに初めて哲学史の領域を確立したことでも知られる。『真善美について』(1853)などの著書がある。

[足立和浩 2015年5月19日]


クーザン(Jean Cousin (le Père))
くーざん
Jean Cousin (le Père)
(1490ころ―1560ころ)

フランスの画家、版画家。サンスに生まれ、同地の大聖堂のステンドグラスの画家として1530年来知られる。38年ごろからパリに在住し、タペストリー、ステンドグラスの下絵を描き、多くの版画の制作や、著作も行っている。アンリ2世のパリ入城の際には、ジャン・グージョンとともに凱旋(がいせん)門の装飾に携わる。油彩は『エバ・プリマ・パンドラ』(ルーブル美術館)などわずかな作品が彼に帰せられるだけである。しかし、フランス・ルネサンスの画家としての彼の名声は高く、バザーリによっても記されている。フォンテンブロー派と同時代であり、ロッソなどの影響も若干認められるが、独自にその道を開いたものと思われる。同名の息子(1522ころ―94ころ)も画家、版画家。

[中山公男]

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