日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケストナー」の意味・わかりやすい解説
ケストナー
けすとなー
Erich Kästner
(1899―1974)
ドイツの詩人、小説家、児童文学作家。ドレスデンに生まれ、第一次世界大戦に従軍。戦後、時代を風刺するユーモラスで辛辣(しんらつ)な叙事詩集『腰の上の心臓』(1928)によって文学的な出発をした。この作風は、小説の代表作『ファビアン』(1931)にも引き継がれる。しかし彼の名を世界的にしたのは、むしろ『エミールと探偵たち』(1928)をはじめとする児童文学作品であった。ドイツの児童文学はケストナーによって一新紀元を画し、国際的な水準に達することになる。しかし彼の自由主義的な現実暴露、辛辣な風刺はナチスの憎むところとなって、ナチスが政権を獲得した直後の1933年5月に、彼の著書は非ドイツ的という烙印(らくいん)を押されて焚書(ふんしょ)の厄にあい、児童文学の傑作『飛ぶ教室』(1933)を最後に、ドイツでは出版ができなくなった。亡命しなかったケストナーは、スイスからユーモア小説『雪の中の三人男』(1934)などを刊行して苦難の時代を切り抜け、第二次大戦後は西ドイツのペンクラブ会長となって(1951)活躍しながら、戯曲『独裁者の学校』(1957)、児童文学『ふたりのロッテ』(1949)、『サーカスの小びと』(1963)などを発表して、ふたたび旺盛(おうせい)な創作力をみせた。
[関 楠生]
『高橋健二訳『ケストナー少年文学全集』全8巻(1962・岩波書店)』▽『高橋健二著『ケストナーの生涯』(1982・駸々堂出版)』▽『板倉鞆音訳『ケストナァ詩集』(1975・思潮社)』