板を支持体として描かれた絵画。板は古代から壁体と並んで絵画の重要な支持体として使われ,とくに扉,天井などの建築の部分,家具・儀礼具の装飾画などに多用された。彩色技法について特に制限はない。蠟画による死者の肖像画で飾られたエジプト,ファイユーム地方出土の装飾棺の蓋(ヘレニズム時代)は古い板絵の著名な例として知られる。また岩絵具で彩色した日本の醍醐寺五重塔(10世紀)や平等院(11世紀)の内壁なども板絵と呼ぶ。しかし,日本・東洋では早くから製紙技術を知っていたために,支持体としての木材利用は限られた範囲にとどまった。板絵は狭義には西洋の中世後期から18世紀近くまでの,大小のテンペラや油絵具で彩色した祭壇画をはじめとする板絵のみを指す。 使用木材の種類は土地によって異なる。エジプト,小アジアではレバノン杉,イタリアではポプラ,フランドルではカシワ,ドイツやスイスではシナノキとクルミなどが多く使われた。狭義の板絵用板の製作には,やにや油気が少なく,節のない上等の柾目(まさめ)板を用い,にかわで目止めをした後に下地を施す。イタリアのテンペラ下地は半水セッコウ(焼セッコウCaSO4・1/2H2O)と濃いにかわのペーストを刷毛で数回塗って平らに削り,さらに固着力のない微粉のセッコウCaSO4・2H2Oと,にかわ液の混合物で仕上げる。フランドルの初期油絵が用いた下地は,白亜とにかわの固練りを平らに薄く塗る。ロシアのイコンもほぼ同様の手順である。16世紀以後の油絵に用いた板には下地を施さないものもある。板絵では額縁に相当する部分も板の一部として最初から作業を行う。16,17世紀の板絵は需要を満たすために厚さが1cm以下のものが多い。そこで板の反りによる画面の損傷を防ぐため,裏面を可動格子(クレードルcradle)で保護する。これは木目方向の桟を固定し,これに直交する桟を可動式にしたものである。小品は木口にコの字形の木製レールをはめて製作した。17世紀以後カンバスが普及するにつれて衰退したが,近年まで屋外スケッチ用の小型板は使われていた。
執筆者:森田 恒之
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
主として日本・中国美術で使われる古美術用語。壁土や布(麻、絹)に描いた絵と区別して、木の板に描いた彩色画を一括して板絵と称する。この場合、板の表面に白土を薄く塗って下地とし、その上に彩色するのと、板に麻布を張り漆を置いて白土を塗り下地にして描くのと2通りのやり方がある。板絵の用いられる分野としては、工芸品の装飾画として描かれる場合と、壁画、つまり堂塔の内部の壁面に描かれる場合の二つに分けることができる。前者を代表するものに法隆寺の玉虫厨子(たまむしずし)および橘夫人念持仏(たちばなふじんねんじぶつ)厨子の須弥座(しゅみざ)にみられる、はめ込みになっている板絵がある。とくに玉虫厨子の両側面に描かれた本生譚(ほんしょうたん)は飛鳥(あすか)期絵画の名品として名高い。後者では板を矧(は)ぎ合わせ大画面を構成するものが多く、奈良室生寺(むろうじ)金堂の伝帝釈天曼荼羅図(たいしゃくてんまんだらず)、京都醍醐寺(だいごじ)五重塔の両界曼荼羅図と真言八祖像などは平安前期の仏画の傑作である。また宇治平等院鳳凰堂(ほうおうどう)の本尊の周囲の壁画、扉(とびら)絵も大画面の板絵として描かれた来迎図(らいごうず)で、大和絵(やまとえ)の名品として知られる。鎌倉時代になると奈良薬師寺の鎮守、休ヶ岡八幡宮(やすみがおかはちまんぐう)の板絵神像、滋賀西明寺塔内の法華説相図など絵画史上重要な遺品が多い。日本以外ではスタインが西域南道コータン(ホータン)付近のダンダーン・ウイリク寺院址(し)で発掘将来した蚕種西漸説話の板絵(大英博物館)は、中央アジアにおける寺院の壁画を知る貴重な遺品である。
[永井信一]
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