(読み)ケ

デジタル大辞泉 「け」の意味・読み・例文・類語

け[終助]

[終助]《過去の助動詞けり」の音変化》形容動詞終止形、動詞の連用形に付く。なお、形容動詞に付くときは「だっけ」の形をとる。過去のことを詠嘆的に思い返したり、気づいたりする意を表す。→たっけだっけ
「今吉めは此の頃橘町へ来たと言っ―が、またよし町へこしたかな」〈洒・妓者呼子鳥〉
[補説]近世の江戸語から用いられた。打ち解けた話し言葉だけに用いられ、下に「ね」「か」などの終助詞を伴うこともある。「け」が動詞の連用形に付く形は、現代語ではほとんど見られない。

け[五十音]

五十音図カ行の第4音。軟口蓋の無声破裂子音[k]と母音[e]とから成る音節。[ke]
平仮名「け」は「計」の草体から。片仮名「ケ」は「介」の省画から。

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精選版 日本国語大辞典 「け」の意味・読み・例文・類語

  1. 〘 終助詞 〙
  2. [ 一 ] ( 助動詞「けり」の変化した語で、東国で用いられた語 ) 回想し、確認する意を表わす。親しい間柄の会話だけに用いられる。江戸では、江戸時代後期以後「たっけ」「だっけ」の限られた形で用いられた。→たっけだっけ
    1. 過去の事柄を思い起こしていう。
      1. [初出の実例]「甲斐の国は珍しき辞(ことば)をつかふ所也。〈略〉成ほどそふで有たといふ事をと云なり。是は下へつけて用ふ。そうだっ・ほんだっうそで有たなどいうがごとし」(出典随筆・独寝(1724頃)下)
      2. 「只の水見てえな白粉も有んだって云(ゆ)ぞ」(出典:土(1910)〈長塚節〉一二)
    2. (思い返して)改めて従い、まれに質問する時にいう。「君は来年卒業するんだっけ」「なんだっけ」など。
  3. [ 二 ] ( 「かえ」「かい」の変化した語 ) 疑問の終助詞。親しい間で用いる。上方では天保以後用いられ、現在も各地の方言として「け」「けえ」の形で残る。〔新編常陸国誌(1818‐30頃か)〕
    1. [初出の実例]「おまんまは冷たかねえ」(出典:土(1910)〈長塚節〉一)

けの語誌

[ 一 ]は、助動詞「けり」の変化したものといわれる。「物類称呼‐五」に「助語 ことのはのをはりにつくことなり 京師にて『ナ』〈略〉武蔵にて『ケ』上総にて『サ』」とあり、武蔵国の特徴的な文末表現として意識されていたことが分かる。現在は東日本の諸方言に分布している。


け【け・ケ】

  1. 〘 名詞 〙 五十音図の第二行第四段(カ行エ段)に置かれ、五十音順で第九位のかな。いろは順では、第三十一位で、「ま」のあと「ふ」の前に位置する。現代標準語の音韻では、軟口蓋の無声破裂音 k と母音 e との結合した音節 ke にあたり、これを清音の「け」という。これに対して、「け」に濁点をつけた「げ」は、軟口蓋の有声破裂音 ɡ の結合した音節 ɡe と、軟口蓋の通鼻破裂音 ŋ の結合した音節 ŋe とにあてられる。ŋe は語頭以外で ɡe の代わりに現われる。ɡe・ŋe を合わせて「け」の濁音といい、特に ŋe については、鼻濁音の「げ」という。鼻濁音を特に示す必要があるときは、濁点を一つにし、または半濁点゜を用いることがある。「け」の字形は「計」の草体から、「ケ」の字形は「介」の省画から出たものである。ローマ字では、清音に ke を、濁音に ge をあてる。かたかなの「ケ」を物を数える「一カ年・一コ」の「箇」に代用することがあり、近来は「一ケ・二ケ」等を「イッケ・ニケ」等とよむようにもなった。これらの「ケ」は、もともと「箇」の略体「个」から出たもので、かたかなとは起源を異にするが、字形として区別はなくなっている。また、「君ケ代」「越ケ谷」「八ケ岳」のように連体助詞の「が」にあてることがある。これは前例の「三ケ日(さんがにち)」等の「ケ」の転用である。

  1. ク活用形容詞、および同型活用の助動詞「べし」「ごとし」の活用語尾。
  2. 未然形語尾。
    1. [初出の実例]「旅と言へば言(こと)にそ安きすくなくも妹に恋ひつつすべ無家(ケ)なくに」(出典:万葉集(8C後)一五・三七四三)
    2. 「胡(いか)んそ勝(あ)けて言ふ可けむや」(出典:大慈恩寺三蔵法師伝承徳三年点(1099)八)
  3. 已然形語尾。
    1. [初出の実例]「あしひきの 山来隔(へな)りて 玉ほこの 道の遠家(ケ)ば 間使(まつかひ)も やる由も無み」(出典:万葉集(8C後)一七・三九六九)

  1. 過去の助動詞「き」の未然形。記紀の歌謡にだけみえる。
    1. [初出の実例]「根白の 白腕(しろただむき)(ま)かず祁(ケ)ばこそ 知らずとも言はめ」(出典:古事記(712)下・歌謡)

けの補助注記

動詞「く(来)」の活用形とする説がある。また、推量の助動詞「けむ」は、この「け」と推量の助動詞「む」との接合したものと考えられる。


  1. 〘 接頭語 〙 ( 「毛」の字を当てることが多い ) 名詞や用言の上に付いて、あなどり、ののしる気持を表わす。「け才六」「け侮る」「けいまいましい」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「け」の意味・わかりやすい解説

五十音図第2行第4段の仮名。平仮名の「け」は「計」の草体から、片仮名の「ケ」は「介」の初めの3画からできたものである。万葉仮名には2類あって、甲類に「家」「計」「奚」「鷄」「祁」(以上音仮名)、「異」「來」(以上訓仮名)、乙類に「氣」「既」「居」「戒」(以上音仮名)、「毛」「消」「飼」(以上訓仮名)などが使われ、濁音仮名としては、甲類に「下」「牙」「雅」「夏」「霓」(以上音仮名のみ)、乙類に「氣」「宜」「礙」(以上音仮名)、「削」(訓仮名)などが使われた。(「氣」は清濁両用)。ほかに草仮名としては「(遣)」「(希)」「(氣)」「(稀)」などがある。

 音韻的には/ke/(濁音/ge/)で、奥舌面と軟口蓋(こうがい)との間で調音される無声破裂音[k](有声破裂音[g])を子音にもつ。上代では甲乙2類に仮名を書き分けるが、これは当時の音韻を反映したものとも考えられる。

[上野和昭]



民俗文化の日常的な面を説明する概念として、柳田国男(やなぎたくにお)によって唱えられ、以後、日本文化の構造を解釈する際の有効な手段として人文科学の諸分野で使われるようになっている。ケは漢字の表記では、褻、毛、気の3通りがある。褻は、衣・食・住にわたる生活文化に具体的に表れており、ごく普通の日常生活を示している。毛は、植物の生育にかかわる語であり、とくに稲作の生育を支える稲魂(いなだま)の力と関連づけられている。気は、人間の生命力と関連する語である。ケは以上のような多面的な文化の総体と考えられている。そしてケの維持ができなくなると、ハレという形の儀礼が形成されることになり、ケとハレはともに民俗文化を構成する主要素と考えられている。

[宮田 登]

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