日本大百科全書(ニッポニカ) 「こと座」の意味・わかりやすい解説
こと座
ことざ / 琴座
夏の宵に頭上に見える星座。七夕(たなばた)の織女星ベガがあるため、小さな星座ながらもっとも目につく星座の一つとなっている。ギリシア神話では、琴の名手オルフェウスが父アポロンから授けられた竪琴(たてごと)をさし、オルフェウスとその妻エウリディケとの哀(かな)しい物語を伝えている。青白色の美しい0.0等星ベガが琴を飾る宝石で、4個の星が形づくる小さな平行四辺形が弦を張った部分と見られている。ベガは「落ちる鷲(わし)」という意味のアラビア語で、ベガとすぐそばにあるζ(ゼータ)星とε(イプシロン)星の3個の星でつくる「へ」の字形が、翼を畳んで降りてくる鷲に似ているところからきている。ベガの中国名は、機(はた)織り娘を意味する「織女」で、日本名も同じ「織姫(おりひめ)」「棚機(たなばた)」などである。ベガまでの距離は25光年。惑星系を生み出す素材となる「原始太陽系星雲」の巨大なガスの円盤がみつかっている。
[藤井 旭]
『ヴォルフガング・シャーデヴァルト著、河原忠彦訳『星のギリシア神話』新装版(1988・白水社)』▽『藤井旭著『春・夏星座図鑑――もっと知りたい春・夏の星座』(2002・偕成社)』