日本大百科全書(ニッポニカ) 「変光星」の意味・わかりやすい解説
変光星
へんこうせい
variable star
時間とともに明るさや性質を変える恒星。
発見・観測史
恒星はその名のとおり昔は不変のものと考えられていた。だから、突然、天空に輝き始める「新星」は古代の人には大きな驚きであった。そのため多くの記録も残っている。紀元前134年にヒッパルコスは明るい新星を発見し、恒星表作製の契機とした。日本でも藤原定家(ていか)は『明月記(めいげつき)』のなかで「客星(かくせい)」の出現(1054)を記録している。この客星は銀河系に現れた超新星の一つで、その残骸(ざんがい)はいまも「かに星雲」として知られている。光度変化の科学的な測定は、ティコ・ブラーエが1572年に新星(実は超新星)を観測し、ファブリキウスが1596年にくじら座ο(オミクロン)星(ミラ)に周期的変光を発見したころから始まる。
当初は眼視観測だったので光度測定の精度も低く、発見される変光星の数も少なかったが、19世紀末葉から天体写真が実用化されるようになって精度も発見頻度も著しく向上した。当時の写真は青い色に敏感で測定精度は約0.1等級であった。20世紀に入ると、1940年代には光電測光法が導入され、同じ青色領域で精度が1桁(けた)増したが、1980年代に導入されたCCD(電荷結合素子)によってとくに赤色域を中心に感度が写真の100倍近く上昇した。測光精度が0.001等級とすると星の表面の0.09%の変光を測定することになるが、その精度で星を見ると太陽を含めたほとんどの星が変光を示すことになり、変光星との区別がますます困難になる。とはいえ、大規模な変光を示す星はなお限られており、ロシア科学アカデミー出版の『変光星総合カタログ』に記載されている変光星は1992年の時点で2万8450個に達し、その種類も20種を超えている。
また、20世紀に入ると光を波長に分解する分光観測が進展し、変光現象の物理的過程の解明に大きく貢献しているが、1950年代以降は電波、赤外線観測や大気圏外からの紫外線、X線、γ(ガンマ)線観測が急速に発展して、世界的な望遠鏡群による同時観測や地上と衛星を結ぶ共同観測など、観測法もますます多様化している。
[小暮智一]
分類
変光星の明るさの変化は光度曲線として表され、それによって変化の周期性、変光幅、増光減光のようすなどが解析される。また、分光観測によって光の波長分布、吸収線、輝線などの情報が得られれば、さらに詳しい解析ができる。
星には見かけの変光星と物理的な変光星とがある。前者は二つの離れた星が連星として共通重心の周りを公転しているのを、たまたま軌道面に近い方向から見るために食現象がおこって変光するという場合である。後者には一つの星自体に原因をもつ場合と、近接連星として相互作用で変光をおこす場合がある。
物理的変光星はさらに変光周期によって短周期、長周期、不規則に分類できる。短周期変光星にはケフェウス座δ(デルタ)星、こと座RR星などがある(周期1日から数十日)。星自体の不安定性による膨張収縮運動(脈動)が基本的な変光の原因となっているので脈動変光星という。長周期変光星は赤色巨星に集中しており、周期は150日から400日くらい、やはり脈動型の変光である。一方、不規則変光星には誕生期の変光と爆発型の変光とがある。変光の原因は星の周辺または表層部における突発的なエネルギー解放によるもの、近接連星におけるガス流と星または星を取り巻く円盤との衝突によるものなど、原因は多様である。
変光星はかつては通常の星とは別種の特別の星と考えられていたが、1950年代以降に発展した星の進化論によって、星の変光が進化の道程と深い関係をもつことが明らかになった。どの星も進化のある段階でその段階に特有の変光星になると考えられている。
[小暮智一]
星の進化と変光星
恒星は星間空間の冷たい塵(ちり)(星間物質)の雲の重力による凝集によって誕生する。雲の凝縮は密度、温度の高い中心部が先行し、中心核に原子核反応によるエネルギー生産が始まると一人前の星となる。初期に雲の周辺にあった塵はゆっくりと下降して星に取り込まれ複雑な変光現象を生じる。自分の重力で収縮中の星を前主系列星、水素核反応で輝く星を主系列星とよんでいる。主系列星はきわめて安定した星なのでほとんど顕著な変光をおこさず、短くて数千万年(青い星)から数百億年(赤い星)まで安定した光を放つ。核反応によって水素が枯渇すると星は主系列を離れ、不安定期に入り、最後に星の中心部での核反応が終結すると星は爆発するか、自分の重力でつぶれてしまう。それを「星の死」とよんでいる。このような星の一生に関連して変光星は次のように区分けできる。なお、(1)~(3)は単独の星の進化に関係する。
(1)誕生期(前主系列)の変光星
(2)不安定期(主系列星以後のおもに脈動変光星)
(3)星の最後(死)に伴う変光星
(4)連星系の進化に伴う変光星
[小暮智一]
誕生期の変光星
代表的な星はおうし座T型星である。星本体もまだ収縮中で中心核反応がおこっていないので中心温度も低く、表面近くでは大規模な対流運動が発達している。対流層からは太陽の彩層やコロナのようなガスの噴出と爆発が続き不安定な変光を生じる。また遅れて降り積もった塵のガスもそれに巻き込まれて毎秒数百キロメートルの高速ガスを流出させたりガスどうしの衝突で紫外線やX線を放射したりするなど活発な運動が繰り返されている。おうし座T型星はおうし座やオリオン座などの若いガス星雲や冷たい塵の雲の近傍に群をなして存在し、星の生まれつつある領域の代表的天体である。
星は誕生期を経て主系列星へと進むと一般には安定になるが、低温のM型星では閃光星(せんこうせい)(フレア星)とよばれる星があり、活発な彩層活動で爆発的増光を繰り返す。これは太陽表面のフレア現象が大規模になったものと考えられる。光で見ると数秒間で急激に増光し、数分から数時間でしだいに減光する。X線ではさらに急激な立ち上がりを示すが、電波では逆に緩やかな増光減光を示す。これらは太陽フレアともよく似ており、太陽フレアと同じように星の表面に強い磁場を伴った領域が存在することを示唆している。
[小暮智一]
脈動変光星
主系列星の中心部で水素が消費されヘリウムが蓄積してくると、星は主系列を離れ、中心核の密度、温度を増加させながら星の外層部は逆に膨張し、巨星から赤色巨星へと向かう。その道程で星は二つの顕著な脈動不安定帯を通過する。第一の不安定帯はケフェウス型変光星で短周期の脈動星である。第二は低質量星の進化した赤色巨星の領域に現れ、長周期変光星(ミラ型変光星)とよばれる。
一般に脈動変光星は脈動運動とともにその明るさを変えるが、明るさの極大・極小は星の半径の極小・極大の時期より遅れて現れる。これは、星内部の脈動が波となって表面に達するまでに時間がかかることを示している。また、変光の周期は星の平均密度と関係があり、平均密度の大きい星ほど短い周期で脈動する。ケフェウス型不安定帯の底部にあたる、たて座δ星では変光周期はわずかに2時間程度である。脈動変光星のうちケフェウス型と周期1日程度の星団型変光星では、平均の明るさと脈動周期との間に周期光度関係とよばれる関係があり、周期の長い星ほど光度が高い。この関係を利用すると変光周期の観測から星の絶対光度が求められ、見かけの明るさとの比較からその星までの距離が推定できる。数十日以上の長い周期のケフェウス型変光星は超巨星なので遠方からも発見されやすい。そのため、この方法は遠方の星団や系外銀河までの距離を測定する有力な方法である。宇宙の構造を探るうえで脈動変光星は重要な役割を担っている。
[小暮智一]
星の最後(死)の時期の変光星
星の中心部で核反応をおこす元素は進化とともに水素、ヘリウム、炭素など軽い元素からしだいに重い元素へと移っていくが、反応をおこすもっとも重い元素は鉄である。鉄まで反応をおこすのは質量が太陽の30倍以上の重い星である。鉄まで反応すると、重い星は最後を迎え、超新星爆発をおこして質量の大部分を吹き飛ばす。その後に残るのは中性子星か、ブラック・ホールである。鉄まで反応できない質量の小さい星は赤色超巨星となり、やがて核燃料を使い尽くすと熱源がなくなるので、星は自分の重力のためにつぶれる。その際、星の表皮を大きく飛び散らせ、美しい惑星状星雲を形成する。あたかも天空の花火に似た現象である。それが質量の小さい星の最後である。星がつぶれると白色矮星(わいせい)とよばれる超高密度星となる。たとえば太陽は約50億年後につぶれ、半径が地球ほどの白色矮星になる。つまり、地球がそのまま30倍の太陽質量になるわけであるから、白色矮星は平均密度が1立方センチメートルあたり1トン程度という高い密度である。
[小暮智一]
連星系の進化に伴う変光星
星の仲間には連星が多い。星全体の50%以上が連星ではないかと推測されている。連星系では二つの主系列星から同時に進化を始めても、星は質量が大きいほど進化が早いから、主星(連星を構成する星のうち、光度の明るいほうの星)が大質量星なら先に中性子星かブラック・ホールになるし、中小質量星であれば白色矮星になる。どれも超高密度星である。連星の相手が中性子星であるとパルサーとして観測されることがある。これは中性子星が非常に強い磁場をもち、また回転周期が数秒から1000分の数秒といった高速自転をしているので、その周期にあった電波、光、X線などをパルスとして放射するからである。連星の相手が白色矮星であると大質量星とは異なった変光星となり、とくに重要なのは激変星とよばれる星である。
[小暮智一]
激変星と新星の仲間
激変星とは爆発的に明るくなってしだいに減光する変光星の仲間で、歴史的に1回の爆発記録のあるものが新星、数十年をおいて爆発を繰り返す星が回帰新星、それより増光の規模が小さく爆発の間隔も数十日と狭い星を矮新星、また、爆発的な現象は示さないが新星に似た性質を示す星を新星類似星とよんでいる。激変星とはこれらの総称である。いずれも連星系で、先に進化した星はすでに星としての生涯を終えた白色矮星になっており、それに続く伴星(連星を構成する星のうち、光度の暗いほうの星)もかなり進化が進んで肥大化した暗い赤色星が多い。激変星にも静穏期と活動期(爆発時)があるのは、伴星が間欠的に多量のガスを主星に送り込み、その一部は主星に衝突し、一部は主星を回る回転ガス円盤に衝突爆発するためである。こうして間欠的に流れ込んだガスが星の表面または回転円盤に衝突して爆発すると種々の新星になるが、どのタイプになるかは主星と伴星の質量、相互距離、間欠の期間、流れ込むガス量などによって決まる。
[小暮智一]
『北村正利著『星の物理』(1974・東京大学出版会)』▽『下保茂著『変光星の探求』(1980・恒星社厚生閣)』▽『ディヴィド・H・クラーク著、岡村浩訳『超新星』(1987・海鳴社)』▽『桜井邦朋著『星々の宇宙――その現代的入門』(1987・共立出版)』▽『尾崎洋二著『宇宙科学入門』(1996・東京大学出版会)』▽『尾崎洋二著『星はなぜ輝くのか』(2002・朝日出版社)』▽『伊藤直紀著『宇宙の時、人間の時』(朝日選書)』