改訂新版 世界大百科事典 「コメツキガニ」の意味・わかりやすい解説
コメツキガニ (米搗蟹)
Scopimera globosa
内湾の干潟に群れをなしてすむ甲殻綱スナガニ科のカニ。甲幅1cmほどで,前方が狭い四角形であるが,甲面が盛り上がっているためにほとんど球形に見える。複雑な模様があるが,全体としてやや紫色を帯びたじみな砂色で,干潟ではカムフラージュ効果がある。潮が引くと巣穴から出て,砂泥をはさみですくって口に入れ,有機物だけを食べて砂泥を丸めて捨てる。採餌の間には,歩脚を踏んばって両方のはさみをゆっくりと上げ,その後急に下げる動作を繰り返す。この運動のもつ意味ははっきりしないが,これを米をつくのに見立てたのが和名の由来と考えられる。個体の密度が低いときは一定の広さの縄張をもっているが,密度が高くなるに従って縄張が狭くなり,しまいには縄張をもたなくなる。北海道南部から沖縄,黄海沿岸,シンガポールから知られている。
干潟の淡水が流れ込むあたりにはチゴガニIlyoplax pusillaが群れをなしており,大きさも同じだが,コメツキガニと違って,巣穴の周囲20cmほどの縄張はつねに一定している。コメツキガニと同じようなはさみの上下運動をするが,ほとんどの個体がほぼ同時に繰り返す。また,両種ともはさみ脚と歩脚の長節に〈鼓膜〉と呼ばれる楕円形の薄膜構造があるが,その役割はわかっていない。
執筆者:武田 正倫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報