アメリカの言語学者。一時期のアメリカ言語学を代表し、主著『言語』Language(1933)はアメリカ言語学のバイブルとまでよばれたことがある。シカゴ大学で博士号を得てのち、ドイツで「青年文法学派」の言語学を学び取った。シカゴ大学教授を経て、晩年はエール大学教授の職にあり、同僚のE・サピアと並んで形成期のアメリカ言語学界を指導し、2人は互いに批判もしたが、よきライバルであった。サピアは間口の広い、思考の柔軟な、人づきあいのよい学者で多数の弟子を養成したが、ブルームフィールドはその著書を通じ、主として方法論に多大の影響を与えた。
ブルームフィールドの学問の特徴は、サピアとともに、それとは多少違った意味で言語学を科学の名にふさわしいものとする点にあった。すなわち彼のいう「言語学の基本的仮定」に基づき、音素論・形態論・統語論を、音素から組み上げて記述言語学の体系をつくり、それを土台として歴史言語学を改めて体系化した。基本的学説はすべて主著『言語』に説かれている。この主著は、ある意味では、バランスよく言語の記述面と歴史面の全域にわたってはいるが、他の意味では強烈に個性的である。すなわち、当時新興の心理学であった行動主義心理学に結局は重きを置き、「観念」「概念」などの思弁的用語を排して、外部に表れる「反応」のみによって記述し、かつ「意味」については、科学的研究が不可能であると信じ、表層的な面のみに基づく記述を説いた。その結果は、厳密を望みながらも、統語論・意味論の分野で不十分な結果しか得られず、「意味不在」の言語学であると評され、チョムスキーの変形生成文法に席を譲った。なお、ブルームフィールドは、アメリカ土語、タガログ語、インドネシア語なども研究し、外国語教育の面でも優れた影響を残した。
[三宅 鴻 2018年7月20日]
『三宅鴻他訳注『言語』(1962/新装版・1969・大修館書店)』
アメリカの言語学者。シカゴ出身。人類学者F.ボアズとその門弟の言語学者E.サピアとともにアメリカ構造言語学の基礎をすえた。シカゴ大学で博士の学位を得た後,1913-14年にドイツに留学,比較言語学者レスキーンAugust Leskien(1840-1916),K.ブルクマンらの下で青年文法学派の史的言語学を修めた。のち,イリノイ大学,オハイオ州立大学を経て,シカゴ大学のゲルマン文献学教授(1927-40),イェール大学の言語学教授(1940-49)を歴任した。主著《言語Language》(1933。イギリス版1935)によりアメリカ構造言語学の指導者と目され,彼の理論の追随者はもちろん,批判,修正を試みた者も彼の影響を免れなかったから,アメリカ言語学史上1933-57年の期間を〈ブルームフィールド時代〉と呼ぶこともある。彼はサピアの心理主義,F.deソシュールの直観にあきたらず,言語学を自然科学的な厳密な実証主義の上に築こうと試み,当時の行動主義心理学の考え方を取り入れて,人間の行動を時空の中に観察しうる現象,刺激と反応の関係としてとらえ,その一環として言語を客観的に記述すべきことを主張し,厳密な方法論と形式による分析を重視した。記述の基本的単位として音素と形態素を立て,前者を音韻構造上の,後者を文法構造上の最小単位とした。意味の記述にも厳密な方法論を要求したが,それに伴う困難に彼が言及していることもあって,30~40年代のアメリカ言語学界の大勢は意味研究を棚上げにし,〈ブルームフィールド後派Post-Bloomfieldian〉の言語学者の中には形式分析に徹し,極端な機械論に走る者も出た。
執筆者:大束 百合子
アメリカのインド学者。1881-1926年,ボルティモアのジョンズ・ホプキンズ大学でサンスクリットと印欧比較言語学を講じた。ベーダの文献学的研究を中心に多くの業績を残し,なかでもベーダ文献全体を渉猟した全マントラの索引である《ベーディック・コンコーダンス》(1906)は現在も学徒の座右の書となっている。ほかに《アタルバ・ベーダ》の部分訳(1897),カシミール発見の写本に基づくパイッパラーダ派伝本の《アタルバ・ベーダ》の校訂出版(1901。R.vonガルベと共同校訂)などがある。
執筆者:高橋 明
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…音素については,これを具体的音声から抽出された音声概念とするポーランドの言語学者ボードゥアン・ド・クルトネの素朴な見解から,一方では心理的実在としてある型をなすものとするE.サピアの説および同質の音声のグループと解するD.ジョーンズの見方に進み,ついに音素は虚構であるというアメリカの言語学者トウォデルW.F.Twaddell(1906‐ )の極論にいたった。これに対し,L.ブルームフィールドは音素を物理的実体としてとらえる立場を表明した。この線に沿ってプラハ言語学派の音韻論は,語の知的意味を区別できる音声的相違すなわち音韻的対立phonological oppositionに基づき音素を分析すべきだと主張した。…
…ジュネーブで学んだモスクワ言語学サークルのカルツェフスキーSergei O.Kartsevskii(1884‐1955)はその一人で,彼を通じてモスクワでソシュールの学説を知ったN.S.トルベツコイやR.ヤコブソンが1926年結成されたプラハ言語学派に拠ってソシュール学説の発展としての音韻論学説の構築を始めたのがヨーロッパにおける構造言語学とソシュール評価の始まりであった。
[ブルームフィールドと構造言語学]
一方,この時期のアメリカではアメリカ・インディアン諸族の文化人類学的研究の進展の中で,その言語の記述のために伝統的な文法によらぬ客観的な方法を必要としていた。アメリカ・インディアン諸語を広く研究したE.サピアはその著書《言語Language》(1921)の中で音声的実態とレベルを異にする音韻論的体系の存在に気づき,これを〈音声パターンsound pattern〉と呼ぶ一方,言語の意味や機能よりは形式の方が体系として研究しやすいことを説き,歴史的・発生的関係に頼らずに純粋に形式的な基準による言語の類型論的分類への道を開いた。…
…――これは何をもって〈ひとつの〉とするかが問題となるし,そもそも意味をどう考えるかという大きな問題を含んでいる。(4)次に機能的な面からの定義として,アメリカの言語学者L.ブルームフィールドの定義がある。これは,言語形式のうち文としてあらわれることのできるものを〈自由形式〉とし,最小の自由形式を単語とするものである。…
※「ブルームフィールド」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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