サプライ・サイド経済学(読み)さぷらいさいどけいざいがく(英語表記)supply-side economics

日本大百科全書(ニッポニカ) 「サプライ・サイド経済学」の意味・わかりやすい解説

サプライ・サイド経済学
さぷらいさいどけいざいがく
supply-side economics

SSEと略称され、供給の経済学と訳される。1970年代からアメリカの経済学者フェルドスタイン、ボスキンなどを中心としておこってきた近代経済学の一潮流。従来の需要サイド重視の経済学に対して供給サイド重視の経済学を志向する、いわば理論的な広義のSSEと、アメリカ経済に対する政策的提言を行う狭義のそれとに分類できるが、とくにレーガン大統領の経済諮問委員会の議長にフェルドスタインが指名されてから、後者が注目を浴びている。しかしレーガンの経済政策即SSEであるとはいいがたい。

[一杉哲也]

狭義のSSE

この学派の資本主義観(アメリカ経済観)は、きわめて古典派的である。その第一は、貯蓄は利子率の高さに大きく左右されるとみることである。ケインズ経済学は、貯蓄は所得水準に依存して決まる度合いが大きく、それが利子率にあまり左右されないとした。これに対してSSEは、貯蓄に対する報酬である利息や、貯蓄から購入される株式の配当などの資本所得が、アメリカでは他の所得と合算されて総合課税されるため、低い手取りとなり(低利子率)、これがアメリカの貯蓄を減らしていると主張する。そこで、資本所得課税の軽減→高利子率→高貯蓄→高投資がアメリカの経済成長に必要であるとする。第二は、アメリカの社会保障がその貯蓄を減らしているとみることである。アメリカの公的年金制度は1937年に始まるが、年金基金はもはや存在せず、若い人から徴収する保険料がそのまま老人年金として支払われている(賦課(ふか)方式)。保険料は、消費支出されないという意味でマクロ的には貯蓄になるが、それが年金として支払われれば、ただちに消費されてしまう。これがマクロ的にアメリカの貯蓄率を下げている原因の一つである。したがって、若い人は民間の金融機関に貯蓄をし、老後はそこから私的年金を受け取るように、社会保障制度を改革(廃止)せよと主張する。第三は、「古き良きアメリカ」型の社会観である。働けばかならず食べられ金持ちになれるのがアメリカ社会であり、働きたくない者、怠け者貧乏・失業を選ぶのであるから、それらに対する社会保障(フード・スタンプなど)を削減して、労働に対するインセンティブを刺激せよと主張する。第四は、アメリカ経済は、租税や社会保障という政府の介入によって低貯蓄・低成長化されているのであり、これらの介入をやめること、つまり小さい政府化することによって活性化するとみることである。こうした視点を、主としてアメリカ経済の実証分析を通じて主張するのが狭義のSSEであり、経済の効率を重視するあまり公正を無視するものという批判が強い。

[一杉哲也]

広義のSSE

広義には、ケインズ経済学や貨幣主義者(マネタリスト)のように有効需要の側面を重視してきた経済学に対して、オイル・ショックを契機に表面化した自然資源や生産量の限界ないし有限性、つまり供給サイドを重視する経済学、あるいは両者を統合した経済学を考えるのがSSEであるという見方もある。この立場からすると、労働、資本設備に加えて原材料(とくにエネルギー)をも投入とする生産関数論や、それらに一定の限界を想定した産業連関表を考えるのも、SSEに含まれることになる。しかし、この立場はまだ確立してはいない。

[一杉哲也]

『小椋正立著『サプライ・サイド経済学』(1981・東洋経済新報社)』『V. Canto, D. Joines, A. Laffer ed.Foundations of Supply-Side Economics(1983, Academic Press)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サプライ・サイド経済学」の意味・わかりやすい解説

サプライ・サイド経済学
サプライ・サイドけいざいがく
supply-side economics

1970年代後半,アメリカ合衆国に登場した経済学で,生産性の停滞,資本不足,貯蓄の過小といった供給面(サプライ・サイド)の分析に主眼をおいた経済学的研究の総称。供給重視の経済学,供給サイドの経済学ともいわれ,マネタリズムとともにロナルド・W.レーガン大統領の経済政策を意味するレーガノミクスの理論的基盤に据えられた。その背景には 1970年代に石油危機による要素価格の高騰や激しいインフレーションに悩むアメリカで,1930年代以来のケインズ経済学(→ケインズ学派)の需要重視政策が行きづまりをみせたという事情がある。サプライ・サイド経済学の核心は,減税による供給効果にある。つまり減税によって貯蓄を増やし,労働意欲を高め,企業投資を促進させて,生産力,供給力の拡充をはかる考え方である。理論的提唱者には,レーガン政権で大統領経済諮問委員会 CEA委員長を務めたマーティン・フェルドシュタインやマイケル・ボスキン,ラッファー曲線のアーサー・B.ラッファーらがいる。

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百科事典マイペディア 「サプライ・サイド経済学」の意味・わかりやすい解説

サプライサイド経済学【サプライサイドけいざいがく】

需要側を重視するケインズ学派に対して供給側supply-sideの重視を主張し,資源を公共部門から民間部門へ,消費から投資へ向けることで,生産力の強化と物価の安定が達成されると論ずる経済学理論。具体的な政策としては,減税,政府支出削減,規制緩和が挙げられる。レーガン大統領がこの考え方に立って経済政策を運営した(レーガノミクス)が,結局,大幅な財政赤字の拡大を招き失敗に終わった。
→関連項目ラッファー曲線

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ASCII.jpデジタル用語辞典 「サプライ・サイド経済学」の解説

サプライサイド経済学

資源を公共部門から民間部門へ、消費財から資本財へ振り分けることで、生産力増強と物価水準の安定を目的とする経済政策の考え方を指す。具体的な政策としては所得税の減税措置、政府支出の削減、政府規制の緩和などが挙げられる。政府規制の緩和と企業の減税で民間企業の投資意欲が増大し、生産力が向上することから、民間部門の活力を活性化することで、国の経済を復活できるとしている。現在の日本で一般的に言われる構造改革とは、このサプライサイド経済学が根本にある。

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