ワーグナーのオペラ。正式の題名は『タンホイザーとワルトブルクの歌合戦』で、「三幕からなるロマン的オペラ」の副題をもつ。自ら中世ドイツの史実や伝説に基づき台本を作成、1845年ドレスデンで初演。愛の女神ウェヌス(ビーナス)のもとで官能の世界におぼれていた騎士タンホイザーは、これに飽いて地上に戻り、ワルトブルクの歌合戦に参加する。そこで彼は肉欲の愛を賛美する大罪を犯してしまうのだが、彼を愛する領主の姪(めい)エリーザベートのとりなしでローマ巡礼の旅に出る。しかし教皇から赦免を拒否されたタンホイザーはふたたびウェヌスの世界に戻ろうとするが、エリーザベートは自らの命を犠牲にして彼の魂を救済する。
このオペラは筋書き構成までワーグナーが自分で案出した最初の作品であり、また音楽面においても、彼独自のスタイルを確立するうえで重要な意味をもつ。ドラマの内容を先取りした交響詩的序曲、息の長いウェヌスとタンホイザーの対話、そしてエリーザベートの「歌の殿堂」やウォルフラムの「夕星(ゆうぼし)の歌」、また「巡礼の合唱」なども有名だが、とくにタンホイザーの歌う第三幕の「ローマの語り」には後期の円熟した作法を予見させるものがある。1861年、序幕にバレエを入れた改訂版がパリで上演されている。
[三宅幸夫]
R.ワーグナー作詞,作曲による3幕のロマン的オペラ。正式な題名は《タンホイザーとワルトブルクの歌合戦》。1845年完成,同年ドレスデンで初演されたが,2年後に一部改訂(ドレスデン版),さらに61年のパリ上演に際しては第1幕にバレエの場面が挿入された(パリ版)。台本は二つの異なった伝説(歌合戦の話およびタンホイザーの伝説)に基づいてワーグナー自身が書いた。中世ドイツの騎士でミンネゼンガーのタンホイザーは,ワルトブルク領主の姪エリーザベトと清い愛を誓い合った仲であったが,妖艶な美の女神ビーナスの誘惑に負けて官能の世界におぼれた。しかしそれにも飽きて,ワルトブルクに戻り,その城内で催された歌合戦に参加したが,ビーナスを賛美したため人々の怒りを買い,領主の命によりローマ教皇のもとへ罪の許しを乞いに旅立たされる。しかし許しは得られず帰国する。エリーザベトはタンホイザーの贖罪がかなわなかったことを知って身を犠牲にし,タンホイザーもまた彼女の遺骸のかたわらに倒れてこと切れる。《序曲》,劇中の《入場の行進曲》(2幕),《巡礼の合唱》《夕星の歌》(ともに3幕)などがよく知られている。
執筆者:渡辺 護
13世紀中ごろに活躍したバイエルン出身の詩人,ミンネゼンガー(中世騎士恋愛詩人)。恋愛詩,舞踏歌,十字軍歌などドイツ語による16編の作品が残っているが,実在詩人としてよりもむしろ中世後期以降に生じた詩人伝説の主人公として有名になった。ベーヌス山Venusbergで官能的歓楽にふけった後,魂の救済を求めてローマに巡礼,教皇の過酷な判決を受けるが,神には許される。このタンホイザーのバラードは,《少年の魔法の角笛》に収録されて以来,ドイツ・ロマン派の詩人たちは好んでこの題材を取り上げた。ワーグナーの楽劇《タンホイザー》では,歌合戦伝説と融合している。
執筆者:岸谷 敞子
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…出エジプト後,祭司を選出する部族を決めるにあたって,アーモンドの樹で作ったつえを各幕屋の前に突き立てて占ったところレビ族のアロンのつえに花が咲いたという。タンホイザー伝説においても,ウェヌスの都で快楽にふけった罪を告白にきた彼に対し,教皇ウルバヌス4世は〈このつえに花が咲くなら罪は宥(ゆる)されよう〉と答えてすげなく追い返したが,ほんとうにつえに花が咲いてしまい,あわててタンホイザーを探しまわったという。ギリシアの悲恋物語では,恋人デモフォンDēmophōnの帰還を待たずに焦がれ死にしたフュリスPhyllisのために,デモフォンがアーモンドの樹の洞に作られた墓に回向したところ,花が一斉に咲きだした奇跡が語られ,爾来アーモンドは不滅の愛の象徴ともなった。…
… さらに,これらのヨーロッパ周辺の民族性の強い国々だけでなく,音楽の発展の主流を担ったヨーロッパ中枢部の国々においてさえ,国民性・民族性の差異は顕著であった。グルックの《オルフェオ》にはウィーン版(イタリア語)とパリ版(フランス語)があり,ワーグナーの《タンホイザー》にもドイツ語版とフランス語版があるが,両者ともフランスで上演するに当たっては,フランスの人たちのバレエ好みを考慮して,大幅な手直しを行っている。ついでながら,自然発生的にオペラが生まれたイタリア以外の諸国では,いずれの国でも,オペラは外から移入された芸術であった。…
…ベーヌス山Venusbergで官能的歓楽にふけった後,魂の救済を求めてローマに巡礼,教皇の過酷な判決を受けるが,神には許される。このタンホイザーのバラードは,《少年の魔法の角笛》に収録されて以来,ドイツ・ロマン派の詩人たちは好んでこの題材を取り上げた。ワーグナーの楽劇《タンホイザー》では,歌合戦伝説と融合している。…
…中世後期以来,年代記,聖人伝等に語り継がれ,グリム兄弟の《ドイツ伝説集》にも収録される。R.ワーグナーの楽劇《タンホイザー》によって一般に知られるが,伝説の原型は,ウォルフラムを崇拝する亜流詩人たちによって13世紀中ごろないし後半に作られたと推定される中世ドイツ語の論争詩に由来する。チューリンゲン方伯ヘルマンHermann von Thüringenをたたえる詩人たち(ウォルフラム,ワルター・フォン・デル・フォーゲルワイデ,ラインマルReinmar von Zweter,ビテロルフBiterolf,書記)を相手に,ハインリヒ・フォン・オフターディンゲンがひとりオーストリア公レオポルトを称賛して敗れる前編を〈君主賛美〉,クリングゾルKlingsorのかける宗教上のなぞをウォルフラムが次々と解いて勝利を収める後編を〈なぞかけ〉,両者を合わせて〈ワルトブルクの歌合戦〉と呼ぶが,これは19世紀以降に研究の便宜上つけられた表題である。…
※「タンホイザー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
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