1949年製作のアメリカ映画。《暴君ネロ》(1932),《クレオパトラ》(1934)に続いてセシル・B.デミル監督が1935年に企画した古代史劇で,戦後,1948年になってV.ヤボチンスキーの《士師と愚者》を原作にして〈ドラマ〉を組み立てた。当時76歳のA.ズーカー社長をはじめパラマウントの幹部は,イスラエルの士師サムソンが愛人デリラに欺かれてペリシテ人の手に渡るという旧約聖書の伝説を〈冷戦〉の幻滅の時代に映画化することに消極的であったが,デミルは大男サムソンに扮したビクター・マチュアと妖艶な美女デリラに扮したへディ・ラマールの〈肉体美〉を売物に,華麗な色彩によるスペクタクル大作として完成した。ラストのクライマックスであるガザの神殿崩壊の30秒間のスペクタクルシーンのほかは見るべきものなしと酷評されたが,観客の減少が叫ばれていた時期に配給収入700万ドルという好成績をあげて〈聖書はハリウッドの最良の友〉であることをあらためて立証し,これが契機になって,20世紀フォックスの《愛欲の十字路》,MGMの《クオ・バディス》(ともに1951)など大型スペクタクル映画流行の道を開いた。なお,ビリー・ワイルダー監督の《サンセット大通り》(1950)には《サムソンとデリラ》を監督中のデミルが本人自身の役で出演している。
執筆者:柏倉 昌美
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フランスの作曲家サン・サーンスのオペラ。3幕4場。『旧約聖書』「士師記」に伝わる古代イスラエルの英雄サムソンの物語に基づく、フェルディナンド・ルメールのフランス語台本による。1877年に全曲がワイマールで初演された。メゾ・ソプラノ(デリラ)を主役にした数少ないオペラの一つであり、とりわけ第2幕の「あなたの声に私の心は開く」は広く親しまれている。独唱が活躍する第2幕を、合唱が中心となる第1、第3幕が囲む構成となっているが、全体としてみると、物語のドラマ性よりも、魅力ある旋律と色彩豊かな管弦楽法によって生み出される異国的な雰囲気に重点が置かれているといえよう。
[三宅幸夫]
…しかし獄中で伸びた髪のおかげで怪力が戻ったので,ダガン神殿の柱を揺さぶり倒壊させ,祭りの群衆3000人を巻添えにしてみずから死を選んだという。その波乱の生涯は文学,美術,音楽などの主題として愛好され,ミルトンの叙事詩《闘士サムソン》(1671)やサン・サーンスのオペラ《サムソンとデリラ》(1868‐77)は特に知られている。【並木 浩一】
[図像]
初期キリスト教時代の例に,ローマ,ラティナ街道のカタコンベに壁画(4世紀)として描かれた〈ライオンを引き裂くサムソン〉〈ペリシテ人の畑を焼くサムソン〉〈ロバの骨でペリシテ人たちを殺すサムソン〉の3場面がある。…
…30年代には,経済的不況による製作費の削減で前半はふるわず,セックスと暴力のメロドラマ的《暴君ネロ》(1932),デミル監督の見せかけだけの歴史スペクタクル《クレオパトラ》(1934),《十字軍》(1935)などでお茶をにごした程度だったが,半ばころからはベストセラー小説の映画化が盛んになり,ハーベイ・アレン原作による《風雲児アドバース》(1936),ジェームズ・ヒルトン原作《失われた地平線》(1937),パール・バック原作《大地》(1937),マーガレット・ミッチェル原作《風と共に去りぬ》(1939),ルイス・ブロムフィールド原作《雨ぞ降る》(1939)などがつくられた。第2次大戦後も,一時スペクタクル映画はおとろえたかに見えたが,映画産業が不況にあえいだ40年代後期に戦後最初のスペクタクル映画であるデミル監督の《サムソンとデリラ》(1949)が大ヒットし,続いて同じデミル監督によるサーカスを舞台にしたスペクタクル映画《地上最大のショウ》(1952)とともにはじまった50年代にも,テレビに対抗して映画が大型化され,最初のシネマスコープ映画《聖衣》(1953)に引き続き,《プロディガル》(1955),デミル監督《十戒》(1956)などがワイド・スクリーンを計算にいれてつくられ,《ベン・ハー》(1959)が大ヒットした。 60年代には《エル・シド》(1961),《クレオパトラ》(1963),《ローマ帝国の滅亡》(1964)などのほか,戦争あるいは戦乱を題材にした《栄光への脱出》(1960),《史上最大の作戦》(1962),《ドクトル・ジバゴ》(1965),聖書をもとにした《キング・オブ・キングス》(1961),《偉大な生涯の物語》(1965),《天地創造》(1966),さらにSFスペクタクル《2001年宇宙の旅》(1968)などがつくられた。…
…共和党の熱烈な支持者でもあったデミルは,30年代の後半から第2次大戦にかけて〈開拓精神とデモクラシーの高揚〉と自称する主題の娯楽大作を多くつくった(《大平原》1939,《征服されざる人々》1947,等々)。戦後もスペクタクル史劇のブームをよみがえらせた大作《サムソンとデリラ》(1949),サーカスの世界を一大スペクタクル絵巻に仕上げた《地上最大のショウ》(1952)などのヒット作を放ち,カラーで再映画化された《十戒》(1956)が最後の作品でありヒット作となった。ハリウッドはデミルとともに一つの時代を終えたといわれ,デミルその人が〈地上最大のショウ〉であったと評されている。…
※「サムソンとデリラ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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