日本大百科全書(ニッポニカ) 「サルボウガイ」の意味・わかりやすい解説
サルボウガイ
さるぼうがい / 猿頬貝
crenated ribbed ark
[学] Scapharca subcrenata
軟体動物門二枚貝綱フネガイ科の二枚貝。東京湾、瀬戸内海、中海(なかうみ)、有明海などの内湾潮間帯から水深10メートルぐらいの所で大量に漁獲される。多少淡水の混じり合う砂泥底を好み、アマモの生えた所にすむので、水産業者はモガイ(藻貝)とよぶ。また、潮干狩の獲物にもなる。日本のほか、朝鮮半島沿岸から華北にかけた地方にも分布する。殻長75ミリメートル、殻高55ミリメートル、殻幅50ミリメートルに達する。殻は白色で左右によく膨らみ、横長の亜方形、殻表には30本から34本の狭くて盛り上がった放射肋(ろく)がある。左殻ではこの放射肋上に低い顆粒(かりゅう)があるが、右殻の放射肋は平滑である。殻表は黒褐色のビロード状の殻皮に覆われる。両殻の殻頂の間は平らな靭帯(じんたい)面で、菱(ひし)形。両殻のかみ合せはまっすぐで、多くの小歯が並ぶ多歯式である。外套膜(がいとうまく)の後方は水管を形成しない。軟体部は赤い。サルボウの名は、この赤い肉と毛状の殻皮との組合せからという説と、猿頬(片手桶(おけ))の形になぞらえたという説とがある。産卵期は7月から9月上旬、水温25℃ぐらいが産卵適温で、1回に250万から300万粒の卵を産み出す。孵化(ふか)した幼生は約10日で0.8ミリメートルぐらいになり、アマモなどの上に足糸で付着する。稚貝の採苗には、海中に縄などを張り、それに付着させる。殻長1.2ミリメートルぐらいになると離れて泥上に落ちる。約1年で23ミリメートル、2年で46ミリメートルになる。むき身をなまで食べるほか、佃煮(つくだに)、缶詰などの材料にされる。
[奥谷喬司]