サル痘(読み)サルとう(英語表記)monkeypox

翻訳|monkeypox

共同通信ニュース用語解説 「サル痘」の解説

サル痘

サル痘ウイルスによる感染症。ウイルスはリスなどの齧歯げっし類が持っていると考えられており、1950年代にサル感染が、70年には人の感染が報告された。アフリカでは地域的に流行してきた。潜伏期間は5~21日、通常は7~14日で、発疹発熱頭痛、悪寒、喉の痛み、リンパ節の腫れといった症状が出る。感染した人や動物体液などに触れたり、近距離で長時間飛沫ひまつを浴びたりすると感染する可能性がある。発症予防には天然痘ワクチンが有効とされる。(共同)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「サル痘」の意味・わかりやすい解説

サル痘
サルとう
monkeypox

動物とヒトの両方に感染するウイルス性疾患で,天然痘(痘瘡)よりは軽いが,似た症状を引き起こす。天然痘や牛痘の病原体と同属のサル痘ウイルスによって感染する。1958年に実験動物のサルから初めて発見され,サル痘と名づけられた。サル痘ウイルスはおもに中央アフリカから西アフリカにかけて生息する霊長類齧歯類が保有しているが,子供に感染した場合に最も危険であり,集団発生で致死率が 10%に達したこともある。
サル痘ウイルスは,感染した動物にかまれたり,感染した動物の体液に直接接触したりすることで,ヒトに感染する。家族間など長期間にわたって濃厚に接触する場合,ヒトからヒトに感染することもある。ヒトが感染すると,約 2週間の潜伏期間を経て,発熱,頭痛,全身の倦怠感や疲労感,リンパ節腫脹などの症状が現れる。さらに数日後には顔面や四肢に発疹が出て,水疱膿疱となったあと痂皮となってはがれ落ち,発症から 2~4週間で治癒する。治療は対症療法によって症状を和らげることに限られる。感染者を隔離し,周辺の衛生管理を徹底的に行なうことで,感染拡大は抑えられる。感染予防にはジネオス Jynneos(あるいはインバネックス Imvanex,インバミュン Imvamune)と呼ばれる生ワクチンが有効である。天然痘ワクチンもサル痘ウイルスに対して一定の防御効果がある。
20世紀に天然痘ワクチンの接種が盛んに行なわれていた時期には,サル痘の流行は限定的で期間も短かった。しかし,1980年に天然痘が根絶され,世界規模のワクチン接種が終了して以降,コンゴ民主共和国をはじめとする中央アフリカ・西アフリカ諸国で大規模かつ長期にわたるサル痘の流行がみられるようになり,動物を介さないヒトからヒトへの感染も増加した。さらに,サル痘ウイルスに感染したアフリカオニネズミ,フサオヤマアラシ,コンゴキリスなどの動物が「外来のペット」としてアフリカから持ち出されるようになった。アメリカ合衆国では,飼育されていたプレーリードッグがアフリカから輸入したペットによりサル痘に感染し,それがヒトへと感染した例が報告されている。なお,天然痘ワクチンを接種することによって,サル痘ウイルスに曝露する可能性の高い獣医師やその他の動物を扱う職業に従事する人々の感染をある程度防止できると考えられている。
2022年5月以降,サル痘流行地域への渡航歴のない患者がヨーロッパやアメリカなどで発生し,その後 75ヵ国から 1万6000件以上の症例が報告された。世界保健機関 WHOは同 7月23日,「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言し,警戒を呼びかけた。日本国内では同 7月25日に感染者が初めて確認された。その後,同年秋以降の世界の新規感染者の減少傾向をうけて,WHOは 2023年5月11日,緊急事態の終了を宣言した。2022年1月1日から 2023年5月11日までに 111ヵ国・地域で 8万7000人以上の感染と,140人の死亡が報告された。

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