改訂新版 世界大百科事典 「サンタクローチェ教会」の意味・わかりやすい解説
サンタ・クローチェ教会 (サンタクローチェきょうかい)
Santa Croce
イタリアのフィレンツェにあるフランシスコ会の修道院教会堂。その名は〈聖なる十字架〉を意味する。アルノルフォ・ディ・カンビオの設計になり,1294-1385年建造。イタリア・ゴシック様式の代表的建築物で,フランシスコ会の教会堂として最大級の規模(全長115m,全幅74m)をもつ。T字形平面から成る3廊バシリカ形式で,東端に主祭室,その両脇に10の礼拝堂が位置する。基本構成と造形はシトー会の教会堂の強い影響下にあり,曲線的モティーフと華美な装飾を避け,細身の角柱と広い柱間が生みだすおおらかな空間の広がりと静謐(せいひつ)さを備え,側廊・身廊を覆う木造の小屋組もこの特性を強めている。礼拝堂はフィレンツェの名家の専用祭室として用いられ,バルディ,ペルッツィ両家のそれはジョット円熟期のフレスコ画《フランチェスコ伝》《2人のヨハネ伝》を伝える。堂内にはほかに,T.ガッディのフレスコ画,ドナテロの磔刑像と聖母被昇天のレリーフなどゴシック末期から初期ルネサンスにかけての貴重な遺品が残る。14,15世紀に,隣接して修道院が完成し,現在その一部は美術館(チマブエの《磔刑図》ほかを所蔵)となっている。教会堂の南側には初期ルネサンス建築の代表的作品パッツィPazzi家礼拝堂が建つ。1966年の大洪水で被害を受けたが,修復工事中に本堂床下から前身となった小会堂(13世紀前半)の遺構が出土した。白と緑の大理石を組み合わせたゴシック風のファサード(正面)は19世紀中ごろに建設されたもの。
執筆者:日高 健一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報