日本大百科全書(ニッポニカ) 「シェックマン」の意味・わかりやすい解説
シェックマン
しぇっくまん
Randy W. Schekman
(1948― )
アメリカの生化学者、細胞生物学者。ミネソタ州セントポール生まれ。1970年カリフォルニア大学ロサンゼルス校卒業、スタンフォード大学に進み、DNA合成の大家、アーサー・コーンバーグ(1959年ノーベル医学生理学賞受賞)の指導を受けて、1975年生化学で博士号を取得。1976年にカリフォルニア大学バークレー校の助教授、1989年から同大学分子生物・細胞生物学科教授。2005年に同大学に設立された幹細胞センターの初代所長を兼務した。1990年からハワード・ヒューズ医学研究所研究員。
シェックマンは、スタンフォード大学でコーンバーグの指導のもと、遺伝子操作技術を身につけた。カリフォルニア大学バークレー校に移った1970年代に細胞内輸送システムとして小胞の役割などに関心をもち、単細胞生物のパン酵母(サッカロマイセス・セルビジエ)を使って研究を始めた。この酵母は、細胞内小器官の小胞が、タンパク質を包み込んで物質輸送する際に重要な役割を果たしており、観察に適していた。高温環境に置くなど人工的に細胞に変異を与え、小胞による輸送が適切に行われないようにして、どの遺伝子が関係しているか、遺伝子レベルで観察する実験を繰り返した。その結果、細胞内の物質輸送に関係する遺伝子23個を発見した。シェックマンは、タンパク質を包み込んで小胞を放出する「小胞体」の役割解明にも大きく貢献した。
細胞内の物質輸送に関しては、哺乳(ほにゅう)類の培養細胞を使って、エール大学のジェームズ・ロスマンが、小胞と移動先の細胞の表面にあるタンパク質が複合体を形成し、それぞれの膜が融合してタンパク質が届けられる仕組みを解明。二人の成果を受けて、スタンフォード大学のトーマス・スードフが、ニューロン(神経細胞)が必要なときだけ神経伝達物質を受け取るのにも、特別なタンパク質によって膜融合し、神経伝達物質が届けられる仕組みを発見した。
1992年アメリカ科学アカデミー会員に選出され、1993年ローゼンスティール賞、1996年ガードナー国際賞、2002年アルバート・ラスカー基礎医学研究賞、2009年トムソン・ロイター引用栄誉賞、2010年マスリー賞(南カリフォルニア大学ケック医学校)、E・B・ウィルソン・メダル(アメリカ細胞生物学会)を受賞、2013年「主要な細胞内物質輸送システムである小胞輸送の制御機構の発見」の功績で、ロスマン、スードフとともにノーベル医学生理学賞を受賞した。
[玉村 治 2021年11月17日]