日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナフサ分解」の意味・わかりやすい解説
ナフサ分解
なふさぶんかい
naphtha cracking
エチレンを主とする石油化学工業原料の製造を目的としたナフサの高温熱分解法。原料にはおもに軽質ナフサを用い、温度約840~920℃、滞留時間0.03~0.5秒において、多量のスチームとともに分解炉に通して熱分解する。分解炉には種々の形式があるが、管式加熱炉が主体で、日本ではすべてこの方式を用いている。生成分解ガスから硫化水素、二酸化炭素などの酸性ガス成分や水分を除き、微量のアセチレンは部分水素化してエチレンに変え、冷却圧縮してC2以上の成分を液化させ、ガス状のメタン、水素を分離する。液化成分は低温精留により、エチレン、プロピレン、ブチレンなどを分離し、また、C4留分(B‐B留分)の抽出蒸留によりブタジエンが分離される。なお、エタンは分解炉へ再循環させ、プロパンは燃料に利用される。一方液状生成物のC5留分から、イソプレン、シクロペンタジエンなどが抽出分離される。C6~C8留分は芳香族炭化水素に富むガソリンで、これを水素化精製したのち、溶剤抽出によりBTX(ベンゼン・トルエン・キシレン)が分離される。残余の液状生成物は重油配合材となる。この一系列の操作で主要な石油化学工業の基礎原料の大部分が製造される。原料や操作条件によって異なるが、主要な生成物の収率(重量%)は、原料ナフサに対してエチレン25~31%、プロピレン12~16%、ブチレン3~8%、ブタジエン4~5%、BTX10~13%程度である。ナフサ分解では多量のスチームを加えて熱分解するため、スチームクラッキングともよばれている。
[原 伸宜]