もともとは石炭産業の合理化(1955年以降)に際していわれた言葉で,能率の悪い設備(機械や建屋)を廃棄し(スクラップscrap),これを高能率の設備に置き換える(ビルドbuild)こと。個々の企業で起こりうるが,一般に,業界全体の規模で統一的な意識のもとに,旧設備の廃棄と新鋭設備の導入が行われる場合に,この言葉が使われる。たとえば,日本の繊維産業が発展途上国の追上げ(途上国のほうが賃金がかなり低いため,同じような設備では日本より安価な製品を生産できる)によって苦境に陥ったとき,繊維業界がまとまって政府の支援を得て,旧設備を廃棄するとともに自動化の進んだ労働生産性の高い新鋭設備を導入して,競争力の回復をはかったことがある。すなわち,1967年に特定繊維工業構造改善臨時措置法が制定され,国際競争力強化を指導理念とし,企業および業界の体質強化のために過剰設備の計画的処理,設備の近代化,企業の集約化などの措置がとられた。この構造改善は73年で終了したが,繊維工業全体としてみた場合,設備の近代化ではかなりの成果をあげたといわれる。スクラップ・アンド・ビルドは単一の企業におけるものについても使われることがあるが,この場合は主として設備の取換えが大規模な場合であり,そうでない場合は〈設備の更新refurbishplant〉が一般的な言い方である。スクラップ・アンド・ビルドは,生産設備のほか,建物(病院,住宅,ホテル等)や構造物(橋,港湾施設,発電所等)でも,古いものを廃棄し新しく建設する場合に使われることがある。
なお,行政機構の肥大化を抑制するための一方法として,機構の新設には新設部局に対応して旧来の部局を整理するというやり方がとられてきたが,この方式についても〈スクラップ・アンド・ビルド方式〉という。
→設備共同廃棄
執筆者:下田 雅昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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