スズカケノキ(読み)すずかけのき(その他表記)oriental plane

日本大百科全書(ニッポニカ) 「スズカケノキ」の意味・わかりやすい解説

スズカケノキ
すずかけのき / 鈴懸木
oriental plane
[学] Platanus orientalis L.

スズカケノキ科(APG分類:スズカケノキ科)の落葉高木。高さ20~30メートルに達する。樹皮は大きく薄片となってはげ、白色と淡緑色のまだらになる。冬芽は葉柄に包まれ、葉は互生し、広卵状円形で幅10~20センチメートル、深く5~7裂し、縁(へり)に欠刻状の鋭い鋸歯(きょし)がある。4~5月、小花が球状に集まって開く。痩果(そうか)は先が鋭くとがり、基部に白い毛があり、多数集まって径約3センチメートルの球形の集合果となり、果軸に3、4個ついて下垂する。小アジア、ヨーロッパ南東部原産。日本へは1900年ころに渡来し、庭園樹、街路樹として植栽されている。

 スズカケノキ科はスズカケノキ属のみからなり、南ヨーロッパからインド、マレー方面と北アメリカ南部からメキシコに10種が分布する。アメリカスズカケノキP. occidentalis L.は北アメリカ東部原産で、樹皮は年を経ると暗褐色となり、縦に割れ目ができる。葉は広卵形で浅く3~5裂し、縁に粗い歯牙(しが)がある。痩果の先は鈍くとがったくさび形で、球状に集まった集合果は果軸に1個、まれに2個ついて下垂。モミジバスズカケ(カエデバスズカケ)P. × acerifolia (Aiton) Willd.(P. × hispanica Muenchh.)はスズカケノキとアメリカスズカケノキとの雑種で、両種の中間の形をしている。樹皮は大きな薄片となってはげ、あとは白色と淡緑色のまだらになる。葉は広卵形で3分の1の深さまで3~5裂し、中央裂片の深さと幅はほぼ等しい。球形の集合果は果軸に2個、ときに3個ついて下垂する。日本の街路樹には、この種類がいちばん多く用いられる。一般には、これらを総称してプラタナスとよぶ。

小林義雄 2020年4月17日]

栽培

北海道から沖縄まで植栽でき、とくに土質を選ばないが、適潤地でよく育つ。成長は速く、強い剪定(せんてい)に耐え、移植も容易。繁殖は実生(みしょう)または挿木による。

[小林義雄 2020年4月17日]

文化史

属名のプラタナスは広い葉に基づいたギリシア語のプラトスplatos(幅広い)に由来する。古代のアテネにはスズカケノキの並木道があり、プラトンなどの哲学者たちが木陰で説き、語ったので、スズカケノキは天才の象徴にされた。ペルシアクセルクセス1世は紀元前480年、第3回ギリシア遠征の途中ヘレスポント海峡(現在のダーダネルス)を渡った際、その木の美しさに魅了されたという。預言者エゼキエルは聖書のなかでプラタナスをたたえた(『エゼキエル書』31章八節)。日本には1900年ごろ導入され、東京の街路樹に育てられた。

[湯浅浩史 2020年4月17日]


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改訂新版 世界大百科事典 「スズカケノキ」の意味・わかりやすい解説

スズカケノキ (篠懸の木)
(common)plane
Platanus orientalis L.

スズカケノキ科の落葉高木で,街路樹または庭園樹として広く植えられている。高さ30mに達し,幹には樹皮が広い薄片としてはげたあとの不規則な模様ができる。葉は互生し,長さ3~8cmの葉柄の基部が冬芽を包み,また鞘(さや)状の早落性托葉がある。葉身は幅10~20cm,手のひら状に5~7の深い切れ込みができ,裂片の縁に少数の歯牙がある。5月,雄花と雌花がそれぞれ別の球形の頭状花序をなし,長い柄で3~6個ずつ総状に垂れる。雄花には3~8個ずつの小さい萼片とおしべおよび3~5個のさじ形の花弁がある。雌花には花弁がなく,3~8個の萼片,さじ形の仮雄蕊(かゆうずい)およびめしべがあり,長楕円形の子房の先端は長い花柱となる。秋に多数の小堅果からなる直径3~4cmの球形の集合果ができる。バルカン半島からヒマラヤまでの温帯に分布し,紀元前からすでにイタリアに入り,16~17世紀にはフランス,イギリスでも街路樹に用いられたという。日本には明治初めに渡来し,小石川植物園に植えられた。そして集合果が,山伏の着る篠懸の衣に付いている房の形に似ているところから,その和名を得たという。

 スズカケノキ科Platanaceaeは1属だけからなり,ヨーロッパ南東部からインドまで,インドシナ半島,北アメリカからメキシコに6~8種が隔離的に分布する。日本で栽植されているものは,スズカケノキのほかに2種ある。アメリカスズカケノキP.occidentalis L.(英名buttonwood)は高さ30m,とくに大きなものでは50mになり,樹皮は乳白色で小さくはがれる。葉は浅く切れ込み,集合果は1個が柄で垂れる。北アメリカ東部に分布し,日本には1900年に入ったが,あまり広められていない。日本で最も多く植栽されるのはモミジバスズカケノキ(一名カエデバスズカケノキ)P.×hispida Muench(=Pacerifolia Willden.)(英名London plane)で,スズカケノキとアメリカスズカケノキの雑種といわれ,樹皮は灰緑色で鹿の子まだらにはげ,葉の切れ込みは両種の中間で全形がカエデの葉に似る。集合果は1~2個ずつ垂れる。スズカケノキの仲間は,やせ地や低湿地でもよく生長し,公害に強く,刈込みにも耐えるので,世界の温帯で広く植栽される。日本でもプラタナス(英名plane tree)と総称して明治40年ごろから挿木で広がり始め,今日各地で街路樹としてはイチョウと並んで最も多く用いられている。材は強硬で,原産地では家具や器具材にも利用される。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「スズカケノキ」の意味・わかりやすい解説

スズカケノキ(鈴懸木)
スズカケノキ
Platanus orientalis

スズカケノキ科の落葉高木。プラタナスとも総称される。小アジア西南部の原産。高さ 30mに達する。葉がよく茂り,また大気汚染にも強いので街路樹や庭園樹としてよく植えられる。樹皮が大きく斑点状にはげ,樹肌はなめらかで新しいものは緑色,古くなると肉色になる。葉は互生し,掌状葉で浅く5~7裂する。春,葉腋に長い柄で垂れ下がる球状の花序をつける。雌花,雄花がある。花後,直径 3cmほどの緑色球状の果実をぶらさげることからこの名がついた。北アメリカ産のアメリカスズカケノキ P. occidentalisは葉の切れ込みが深く,樹の肌がざらついて縦に深いひだがあり,本種のように樹皮がむけることはない。また果実の柄が枝分れして数個ずつつく。日本で多く街路樹に植えるのはこの両種の間の雑種カエデバスズカケ P. acerifoliaである。

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百科事典マイペディア 「スズカケノキ」の意味・わかりやすい解説

スズカケノキ

ヨーロッパ南西部〜アジア西部原産のスズカケノキ科の落葉高木。日本には明治初めに渡来し,広く植栽される。樹皮はよくはげ,葉は大きく,掌状に裂け,裂片には鋸歯(きょし)がある。4〜5月,雌花,雄花を別々の頭状花序につける。果実は先端のとがった小さな痩果(そうか)が多数集まった球状果で,1本の果軸に3〜4個連なってつき,下垂する。近縁のアメリカスズカケノキは北米東部原産で,樹皮はあまりはげ落ちない。葉は広卵形で浅く3〜5裂する。痩果は先があまりとがらず,球状果はただ1個だけつく。両種の雑種モミジバスズカケノキ(カエデバスズカケノキ)を含め,プラタナスといわれる。3種ともに街路樹,公園樹とするが,最もふつうに見られるのはモミジバスズカケノキである。

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