日本大百科全書(ニッポニカ) 「セルデン」の意味・わかりやすい解説
セルデン
せるでん
John Selden
(1584―1654)
17世紀前半に活躍したイギリスの法律家、政治家、また法・政治学者。彼の思想には、エラスムス、フッカー、グロティウスなどの人文主義者たちの影響がみられ、彼自身、1630年代のイギリスにおけるもっとも開明的な知識人の集まりであったグレート・チュー・サークルの主要メンバーであった。1612年弁護士となり、1623年下院議員、1628年の「権利請願」の起草に参加。1640年には、クロムウェルと同じくオックスフォード大学を代表して長期議会に入り、宗教の自由を主張。1649年チャールズ1世の処刑をめぐり独立派・平等派(レベラーズ)と対立、政界を引退。『名誉の称号』(1614)、『イギリスにおけるユダヤ人論』(1617)、『十分の一税の歴史』(1618)、『閉鎖海論』(1635)、『ヘブライ人の法律からみた万民法と自然法』全7巻(1640)、『卓上閑話』(1689)など著書多数、ホッブズ、フィルマーなどにも影響を与えている。『十分の一税の歴史』では神権説を否定、主著『閉鎖海論』は、グロティウスの『自由海論』(1609)やオランダのイギリス海岸における漁業権の主張に反論したもの。
グロティウスが、海洋はいかなる国の排他的支配にも服さず、いかなる国の船舶も自由に航行できると主張したのに対し、セルデンは、陸地と同じく海洋も、長い年月の経過のなかで特定国の排他的支配に服しうることを、歴史的事実や資料・聖書などを根拠にして論証している。この論争は、当時の興隆しつつあった資本主義諸国家間の貿易や産業の状況を知るうえで好個の材料といえ、また今日の200海里漁業専管水域をめぐる問題を考えるうえでも興味深い。
[田中 浩]