改訂新版 世界大百科事典 「タイプ理論」の意味・わかりやすい解説
タイプ理論 (タイプりろん)
theory of types
B.A.W.ラッセルが1901年に発見したいわゆる〈ラッセルのパラドックス〉を解決しようとして提出した理論(1908)と,その単純化,制限の解除,および変形の総称。階型理論ともいう。大ざっぱにいえば,ある言語に登場する名辞は一般に階層組織を持ち,ある階層に属する名辞にはそれよりも高い階層の名辞しか帰属しないという思想にもとづいて論理学と数学の言語を再構成し,その言語中ではパラドックスが生じないようにする理論である。ラッセルは〈ある要素集合はその集合によって初めて定義されるものを要素とすることはできない〉という悪循環原理vicious-circle principleにもとづいてこれを行った。こうして,個体集合はそれ自身個体ではなく,個体集合の集合はそれ自身個体集合ではないことになる。しかし彼は,〈エピメニデスのパラドックス〉を初めとする意味論的パラドックスもこの原理にもとづいて解決されるべきだと信じたため,最初提出された理論は分岐タイプ理論ramified theory of typesというきわめて複雑なものであった。彼はあとで意味論的パラドックスを別に扱うべき異種のものであることを認めてこの理論を単純タイプ理論simple theory of typesに簡単化し,《プリンキピア・マテマティカ》の第2版でこれを採用した。タイプ理論のあとの発展は,理論の存在論的な面をいかに形式的な統語論に再構成するか,統語論的階層制限をどれほどゆるめ,あるいは変形してもパラドックスを生じないかということであった。しかし日常言語における語句の階層的構造は明確には認められず,悪循環原理は哲学的な存在論,カテゴリー論において生かされるべきものとされる。
→パラドックス
執筆者:中村 秀吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報