出エジプト記(読み)しゅつエジプトき(英語表記)The book of exodus

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「出エジプト記」の意味・わかりやすい解説

出エジプト記
しゅつエジプトき
Shemoth; Exodus

旧約聖書中の一書。マソラ本文では律法書の,またセプトゥアギンタではモーセ五書の第2書。ヘブライ名はシェモース Shemoth(名前の意味)であり,『出エジプト記』の名はギリシア語のエクソドス Exodus(出発の意味)からきている。本書はほかの律法の書および『ヨシュア記』とともにイスラエル民族の起源とその選びという統一的主題のもとにイスラエルの民の救済史を形成する。『出エジプト記』もほかの 5書同様,いくつかの時代の資料からなるが,祭司資料,ヤハウェ資料,エロヒム資料がおもなものである。本書の主題は神によって選ばれたイスラエルの民の救出と信仰共同体としての民族の確立であり,内容は (1) エジプトからの脱出荒野放浪(1~18章),(2) シナイ山での契約とそれに基づく祭儀(19~40章)に大別される。(1) には,エジプトにおけるイスラエルの民への圧制,モーセの誕生と召命,脱出と海が裂けた奇跡,放浪における苦難,モーセの義父エテロ来訪が,(2) には後世キリスト教神学で,存在そのものとしての神を弁護する聖書的典拠となった神の顕現十戒,主の幕屋造営のための指示,祭儀上の指示,背教と契約の更新などが記されている。キリスト教ではこの出エジプトを神による人類の救済の予型とみている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「出エジプト記」の意味・わかりやすい解説

出エジプト記
しゅつえじぷとき
The book of exodus

『旧約聖書』2番目の書で、次の三つからなるイスラエル民族成立史を内容とする。

(1)エジプトからの脱出を指導したモーセの誕生、奇跡的守護、召命。エジプト王との交渉、エジプトへの多くの災禍、過越祭(すぎこしのまつり)の由来、そして紅海の奇跡による脱出成功。

(2)モーセ集団への神の導き、神の山でモーセ妻子と岳父の祭司エテロと再会。

(3)シナイ山における神の顕現、契約と十戒によるヤーウェ信仰を基盤にしたイスラエル宗教共同体の確立。

 本書は紀元前10世紀末のヤーウェ資料、それから前760年ごろのエロヒム資料と前6世紀の祭司資料の複雑な融合からなっている。ことに紅海の奇跡によるエジプト脱出とシナイ契約は本書の二大テーマであり、それは歴史における神の救済信仰を生み出し、ユダヤ教およびキリスト教の信仰の根幹となる。またモーセの十戒(22章)は、現在も多くの人々の日常生活の倫理的規範になっている。

吉田 泰]

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