中世ドイツの騎士歌人の総称。ミンネジンガーMinnesingerとも呼び,〈愛の歌い手〉を意味する。その出自および文学的側面については,〈ミンネザング〉の項目を参照されたい。音楽史の流れからみると,初期の例は記譜された形では残っていないが,盛期のワルター・フォン・デル・フォーゲルワイデの名作《パレスティナの歌》以後,多くの作品が,ミュンスター,イェーナ,ウィーン,コルマールなどの写本に残っている。ワーグナーの歌劇《タンホイザー》のワルトブルク城の歌の殿堂の場に登場するタンホイザー,ウォルフラム(エッシェンバハの),ナイトハルト(ロイエンタールの)らは,すべて実在したミンネゼンガーであり,ワルトブルク城における騎士たちの歌合戦も,1206年に実際に行われたとする説がある。彼らが残した作品の楽譜については,音高は明らかでもリズムの解釈に異説があるが,最も普遍的に用いられた楽曲形式は,A A BまたはA A B Aの形で表されるバール形式であった。
執筆者:服部 幸三
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中世ドイツの宮廷叙情詩(ミンネザング)の歌人。ミンネザングは南フランスのトルーバドゥール(吟遊詩人)の影響を受けて1170年ごろにおこり、ドイツやオーストリア各地の宮廷で1300年ごろまでつくられた。詩は宮廷の宴席で発表され、作者は作詩、作曲、朗唱のすべてを行った。なかでも、若い騎士の、容姿・品性優れた高貴の既婚婦人にあこがれる歌が多い。高潔な異性への官能の成就なき愛(ミンネMinne)は騎士の精神を高め、中庸や自制心を教える。愛の教育的な意味を省察的に歌う「高きミンネ」の歌の名匠として、ウィーン宮廷のラインマル・フォン・ハーゲナウ、マイセンのハインリヒ・フォン・モールンゲンらが名高い。これらの歌の様式性に飽き足らず、純潔無垢(むく)な庶民の少女への現実的な愛をたたえたのが遍歴の大詩人ワルター・フォン・デァ・フォーゲルワイデである。彼は恋愛詩のほか多くの政治詩、格言詩もつくり、ミンネザングを宮廷の技芸を超えた偉大な詩として完成した。ほかに、きぬぎぬの歌の名手ウォルフラム・フォン・エッシェンバハ、十字軍の歌をつくったハルトマン・フォン・アウエ、フリードリヒ・フォン・ハウゼンなどが注目される。
[高津春久]
『高津春久編訳『ミンネザング』(『ドイツ中世叙情詩集』所収・1978・郁文堂)』
…古いものでは8世紀ごろ成立したイギリスの《ベーオウルフ》があり,北欧の〈エッダ〉と〈サガ〉,ドイツの《ニーベルンゲンの歌》などのゲルマン色の濃いものや,おそらくケルト系のアーサー王伝説群,それに,キリスト教徒の武勲詩の性格をもつフランスの《ローランの歌》,スペインの《わがシッドの歌》などが,いずれも12,13世紀ごろまでに成立する。抒情詩としては12世紀ごろから南仏で活動したトルバドゥールと呼ばれる詩人たちの恋愛歌や物語歌がジョングルールという芸人たちによって歌われ,北仏のトルベール,ドイツのミンネゼンガーなどに伝わって,貴族階級による優雅な宮廷抒情詩の流れを生むが,他方には舞踏歌,牧歌,お針歌などの形で奔放な生活感情を歌った民衆歌謡の流れがあり,これがリュトブフ(13世紀)の嘆き節を経て,中世最後の詩人といわれるフランソア・ビヨン(15世紀)につらなる。ほぼ同じ時期に最後の宮廷詩人シャルル・ドルレアンもいて,ともにバラードやロンドーといった定型詩の代表作を残した。…
…アルビジョア十字軍や貴族の結婚などを契機として,世俗歌の創作活動は,北フランスに波及し,やがてはドイツ文化圏においても継承された。その担い手は,南フランスではトルバドゥール,北フランスではトルベール(いずれも〈見いだす人〉の意),ドイツではミンネゼンガー(愛を歌う人)と呼ばれた。イタリアにもトロバトーレがいて,ダンテらもその影響を受けたらしいが,彼らの音楽は伝わっていない。…
…ドイツ文学史の中でミンネザングと呼ばれるものは,脚韻を踏む1節ないし数節から成る詩作品で,12世紀後半から15世紀ころまで,主として王侯貴族の社交の場で娯楽と教化のために歌唱された。ミンネザングの作者はミンネゼンガー(またはミンネジンガー)と呼ばれ,詩人であると同時に作曲家であり演奏家でもある。実際の身分は貴族とは限らないが,騎士文化の積極的な担い手であるという自覚の点で,彼らは〈騎士階級〉の成員であり,女流詩人はいない。…
※「ミンネゼンガー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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