恙虫病(読み)つつがむしびょう(英語表記)tsutsugamushi disease
Japanese flood fever

精選版 日本国語大辞典 「恙虫病」の意味・読み・例文・類語

つつがむし‐びょう ‥ビャウ【恙虫病】

〘名〙 おもにハタネズミに寄生するツツガムシに人が刺されて発病する疾患病原体リケッチア‐オリエンタリス。日本・東南アジア南洋諸島に広く発生する。日本では秋田・山形新潟の各県の河川流域に発生するものが多数の死者を出して恐れられていたが、現在では特効薬により、死者は少なくなった。刺されたところが化膿してくずれ、近くのリンパ腺がはれて痛む。頭痛食欲不振が起こり、発病一週間くらいから全身に赤い斑状発疹が現われる。

ようちゅう‐びょう ヤウチュウビャウ【恙虫病】

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デジタル大辞泉 「恙虫病」の意味・読み・例文・類語

つつがむし‐びょう〔‐ビヤウ〕【×恙虫病】

野ネズミが保有するリケッチア一種ツツガムシが媒介し、人が刺されたときに感染して起こる病気。高熱を発し、リンパ節れ、全身に発疹ほっしんが生じる。感染症予防法の4類感染症の一。致命的となることがあったが、現在は有効な抗生物質がある。

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改訂新版 世界大百科事典 「恙虫病」の意味・わかりやすい解説

恙虫病 (つつがむしびょう)
tsutsugamushi disease
Japanese flood fever

ツツガムシ(恙虫)の幼虫が媒介するリケッチアによって起こる急性発疹性の感染症。俗に〈恙無し〉はツツガムシに感染していないことから転じて,〈無病〉の状態をいうようになったとされている。病原体はリケッチア・オリエンタリスRickettsia orientalisで,野ネズミや野鳥などに寄生する病原体保有のツツガムシ幼虫に刺されることによって,皮膚を通して感染,発症する。ヒトからヒトへの感染や,あるいは他の動物からヒトへの感染はない。媒介種のツツガムシにはアカツツガムシフトゲツツガムシ,タテツツガムシL.scutellariaなどがある。南西太平洋諸島,東南アジア,日本にかけて広く発生する。日本では古くから秋田,山形,新潟の河川地区で夏季に発生する地方病として知られていたが,近年各地に発生がみられており,死亡例も出ている。

有毒ツツガムシ幼虫に刺されてから10日前後の潜伏期を経て全身倦怠,頭痛,筋肉・関節痛とともに急激な高熱を発し,全身にさび色から出血性の斑状丘疹を生ずる。多くの場合,全身のリンパ節が腫張する。特有な所見は〈刺し口〉で,刺されて数日後局所の皮膚に発赤した丘疹ができて水疱化し,発熱の時期に一致して潰瘍をつくり,次いで直径1cm前後の黒褐色の痂皮(かさぶた)でおおわれる。所属のリンパ節に痛みのある腫張を伴う。放置すると高熱は2~3週間持続し,重症例では意識混濁,循環不全で死亡する。

 診断には,山や野歩き,川釣り,農作業などの感染機会の有無およびその際の刺痛,特有な〈刺し口〉とともに,発疹,発熱などの臨床症状が重要な決め手となる。病原体診断としては,マウスを用いてのリケッチア分離と血清学的診断(ワイル=フェリックスWeil-Felix反応,補体結合反応,蛍光抗体法,酵素抗体法)がある。これらの検査法のうち酵素抗体法は早期迅速診断法として優れている。なお血清学的に,恙虫病リケッチアは春秋の発生地に多いとされるギリアム型とカープ型,夏季の発生地に多いとされる加藤型の3種が知られている。

抗生物質のうち,各種ペニシリンおよびセファロスポリン系薬剤はまったく無効である。テトラサイクリン系薬剤(ドキシサイクリンまたはミノサイクリン)およびクロラムフェニコールがきわめて有効,またリファンピシンも有効であるが,リケッチアはリンパ組織内に存在するので再発を避けるために解熱後もしばらくは薬を続ける必要がある。
執筆者:

秋田,山形,新潟3県の日本海にそそぐ雄物川,最上川,阿賀野川,信濃川の中・下流地帯では,昔から夏になると,川沿いの草原に入った農民や旅人の間に,突然高熱を発し,体中に赤い発疹が現れ,せん妄状態になり,10人に4~5人は14~15日から20日のうちに死んでいくふしぎな熱病があったが,これが恙虫病であった。ベルツは〈日本洪水熱〉と名づけたが,ツツガムシと呼ばれるダニの幼虫が媒介することは,1899年に秋田の医師田中敬助によって確かめられ,その病原体がリケッチアであることは昭和に入って発見された。山形県南部の最上川中流には,江戸時代から〈病河原〉と呼ばれた河原があり,ケダニといわれた毒虫の病毒で命を失う者が多かったが,これも恙虫病であった。こうした河原には毛谷(けだに)大明神とか恙虫明神と呼ばれる小祠が建てられていた。ツツガムシは筑摩,河内,加賀にもいた記録があり,全国的にまんえんしていたことがうかがえる。
執筆者:

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「恙虫病」の意味・わかりやすい解説

恙虫病
つつがむしびょう
tsutsugamushi disease

ツツガムシ (ダニの一種) に刺されて感染する風土病の一つ。病原体はリケッチアアカネズミなどのノネズミも保菌動物である。日本国内ではかつて,夏季に秋田県,新潟県,山形県の河川流域で発生した。約1週間の潜伏期を経て高熱とともに発病し,5~6日で稽留熱となり,刺咬部と付近のリンパ節が腫脹する。かつては 10~40%という高死亡率を示したが,抗生物質の登場によって低下した。患者もほとんど発生しなくなった。

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世界大百科事典(旧版)内の恙虫病の言及

【ツツガムシ(恙虫)】より

…前気門亜目ツツガムシ科Trombiculidaeに属するダニの総称。幼ダニの時期だけが脊椎動物に寄生し,ある種では激しく人を刺して皮膚炎を起こしたり,ツツガムシ病を媒介する。未吸着の幼ダニは体長が0.2mmほどで3対の脚を有する。親ダニと若ダニは体長が約1mmで胴が8字形にくびれ,4対の脚を有し,体表にビロード状の短毛を密生する。卵は0.1mmほどの球形で土中に産み落とされる。孵化(ふか)した幼ダニは1回だけ寄生してリンパ液を吸い,若ダニと親ダニは土中で昆虫などの卵を吸って自由生活する。…

【熱帯医学】より

…痘瘡(とうそう)ウイルスによって引き起こされる痘瘡(天然痘)は,熱帯地方に広範にみられた風土病であったが,世界保健機関(WHO)の取組みによって根絶された。 リケッチア類によるものには,恙虫(つつがむし)病,ロッキー山紅斑熱,発疹熱などがある。恙虫病は,広く南太平洋から東南アジアにかけて分布しており,病原体をもったツツガムシに刺されて感染する。…

【風土病】より

…これらの疾病には,カによって媒介され,熱帯地方に広くみられるデング熱,熱帯や温帯の湿地に流行するマラリア,アフリカや中南米にみられる黄熱,沖縄および南九州の島々や海岸地方にみられるフィラリア症などがある。節足動物が媒介する風土病のこのほかのものには,ツツガムシによって媒介され,秋田,山形,新潟などの各県にみられた恙虫病(つつがむしびよう),ツェツェバエが媒介する中央アフリカおよび西アフリカにみられる睡眠病などがある。 また寄生虫性疾患には,中間宿主の動物がある地域のみに生息するために風土病として現れるものがある。…

【リケッチア】より

…新たな人間が感染するのは,シラミの吸血刺口をかいた傷口から,糞の一部が侵入するためである。 ヒトに病原性を有するリケッチアは,発疹チフスのリケッチアを含めて11種が知られており,発疹熱,ロッキー山紅斑熱,北アジアダニチフス,ブートン熱,クインスランドダニチフス,リケッチア痘,恙虫(つつがむし)病,Q熱塹壕(ざんごう)病および腺熱である。 恙虫病は,リケッチア・オリエンタリスR.orientalisによってひき起こされ,秋田,山形,新潟地方で古くから知られていた死亡率の高い疾患で,ツツガムシによってヒトに伝播される。…

※「恙虫病」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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