改訂新版 世界大百科事典 「ツメバケイ」の意味・わかりやすい解説
ツメバケイ (爪羽鶏)
hoatzin
Opisthocomus hoazin
ホトトギス目ツメバケイ科Opisthocomidaeの鳥。1科1種。ツメバケイは多くの点で奇妙な鳥として知られている。全長は約60cm,長い冠羽のある頭は小さく,くびが細い。翼は大きく,尾は幅が広く長い。雌雄の羽色は同じで,体の上面は褐色の地に白い縞模様があり,下面は赤黄色である。分布は南アメリカ北部で,アマゾン川,オリノコ川の流域沿いのマングローブ林などに5~10つがいくらいの群れで生息する。この鳥は,本来食物を蓄えるべき嗉囊(そのう)がとくに肥大して大きく,その壁が厚くなっており,食物は嗉囊ですりつぶされる。胸骨は大きな嗉囊の圧迫によって退化し,飛翔(ひしよう)のための筋肉の発達をおさえてしまうため,せいぜい20mくらいしか飛ぶことができない。巣は水上に張り出した低木林の枝に,ハトの巣に似たものをつくる。1腹の卵数は2~4個で,抱卵日数は約28日である。ツメバケイの雛の特異的な点は,孵化(ふか)直後の前肢に2本のつめが発達しており,雛は4本のつめを使って樹上をよじり歩く。水面に落ちても泳いで木にたどり着き,つめを使って再び巣に戻る。前肢のつめは,孵化後2~3週間で消失する。ツメバケイが分類学上どのグループに近縁であるのかは多くの異論があった。キジ目に分類される場合,独立の目とされる場合,あるいはホトトギス目に入れられる場合があったが,頭骨および肩帯骨格がホトトギス目のエボシドリ科に近いことから,ここではホトトギス目ツメバケイ科とした。
執筆者:柿沢 亮三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報