ドイツの哲学者、社会主義者。なめし革工の仕事のかたわら哲学を独学する。1848年の三月革命に参加して以来、社会主義運動に携わる。反動期にはアメリカへ亡命、のちにはロシアにも行き、最後はシカゴで没した。形而上(けいじじょう)学を否定して認識論を哲学の本務とする。事物は相互に作用しあって流動的に発展すること、すべてのものは一なる無限の自然に帰し、それゆえ存在するものの間の区別は相対的、もしくは程度の差でしかないこと、思考は脳髄の所産であり、認識は個別から普遍への発展であることなどを説いた。マルクスらとは独立に唯物論的弁証法の立場に達したとするエンゲルスの評価は、多分に政治的配慮によるものであり、実情は具体的な分析を抜きにして粗雑な比喩(ひゆ)ですます素朴な自然一元論である。主著に『人間の頭脳活動の本質』(1869)、『哲学の実果』(1887)、『一社会主義者による認識論概観』(1887。邦訳『マルキシズム認識論』)などがある。
[藤澤賢一郎 2015年3月19日]
『小松摂郎訳『人間の頭脳活動の本質』(岩波文庫)』▽『山川均訳『哲学の実果』(大和書房・覆刻版改造文庫)』▽『石川準十郎訳『マルキシズム認識論』(大和書房・覆刻版改造文庫)』▽『レーニン著、佐野文夫訳『唯物論と経験批判論』(岩波文庫)』
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ドイツの社会主義者。皮革職人。アメリカで生活したり,ロシア(ペテルブルグ)で職工長を務めたりしながら独学,マルクス,エンゲルスとは独立に一種の〈唯物弁証法〉を築いた。《人間の頭脳活動の本質》(1869),《一社会主義者の認識論の領域への征入》(1887),《哲学の実果》(1887)などの著作がある。
執筆者:廣松 渉
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