イタリアの映画監督、俳優。7月7日フロジノーネのソーラに生まれたが、幼時は父の出身地ナポリで育つ。初めローマの独立劇団で俳優、歌手として名をなす。映画界進出もまず俳優としてであり、1930年代にはマリオ・カメリーニ監督の『殿方は嘘(うそ)つき』(1932)、『ナポリのそよ風』(1937)などで、軽妙かつほろ苦い喜劇の二枚目スターとしてイタリア国内の人気をよんだ。1940年代には『紅ばら』(1940)など自らも監督の道を歩み、『子供たちは見ている』(1942)で優れた脚本家チェーザレ・ザバッティーニCesare Zavattini(1902―89)と出会い、高揚期がくる。『靴みがき』(1946)は第二次世界大戦直後のローマの浮浪児たちの生活を描き、続く『自転車泥棒』(1948)は、ロッセリーニ監督の『無防備都市』(1945)とともに、初期ネオレアリズモ不朽の名作となった。いずれの作品も現実を限りなく凝視し、その現実が語り出す精緻(せいち)な人間感情が感動をよんだ。『ミラノの奇蹟(きせき)』(1951)は立ち退きを迫られたスラムの生活を寓話(ぐうわ)化し、『ウンベルトD』(1952)では老官吏の孤独な生活を比類のないリアリズムで描いた。俳優としては『ロベレ将軍』(1959)で、前科者の偽将軍がレジスタンスを闘った本物として銃殺される人間像に名演技をみせた。『終着駅』(1953)、『屋根』(1956)、『ひまわり』(1969)、『旅路』(1974)と佳作を監督した彼は、生まれながらの俳優といわれるナポリ気質に、現実凝視が渾然(こんぜん)一体となった映画人であった。1974年11月13日没。
[鳥山 拡]
紅ばら Rose scarlatte(1940)
金曜日のテレーザ Teresa Venerdì(1941)
子供たちは見ている I bambini ci guardano(1942)
靴みがき Sciuscià(1946)
自転車泥棒 Ladri di biciclette(1948)
ミラノの奇蹟 Miracolo a Milano(1951)
ウンベルトD Umberto D.(1952)
終着駅 Stazione Termini(1953)
屋根 Il tetto(1956)
ふたりの女 La ciociara(1960)
ボッカチオ’70~「くじ引き」 Boccaccio '70 - La riffa(1962)
アルトナ I sequestrati di Altona(1963)
黄金の五分間 Il boom(1963)
昨日・今日・明日 Ieri, oggi, domani(1963)
あゝ結婚 Matrimonio all'italiana(1964)
華やかな魔女たち Le streghe(1966)
紳士泥棒 大ゴールデン作戦 Caccia alla volpe(1966)
恋人たちの世界 Un mondo nuovo(1966)
女と女と女たち Woman Times Seven(1967)
恋人たちの場所 Amanti(1968)
ひまわり I girasoli(1969)
悲しみの青春 Il giardino dei Finzi Contini(1970)
旅路 Il viaggio(1974)
イタリアの映画監督。第2次世界大戦後,《靴みがき》(1947),《自転車泥棒》(1948)の2作でロベルト・ロッセリーニと並ぶ〈ネオレアリズモ〉の最大の監督となった。《子供たちは見ている》(1942)から《ミラノの奇蹟》(1950),《ウンベルト・D》(1952),《終着駅》(1953),《ふたりの女》(1960)等々に至る代表作のすべてが脚本家のチェーザレ・サバティーニとコンビを組んだもので,サバティーニの主張した〈日常性のネオレアリズモ〉はむしろデ・シーカとの共同作業によって形成されていったものとみなすことができる。銀行員を父に,ソーラで生まれ,子どものころからの芝居好きが高じて,1922年,タチアーナ・パブロワ劇団に入り,舞台俳優の道を歩んだ。27年,映画界入りし,二枚目の人気俳優になり,監督になってからも,ロベルト・ロッセリーニ監督《ロベレ将軍》(1959)など,幾多の主演映画がある。《昨日・今日・明日》(1964)などソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニ主演の艶笑喜劇を大ヒットさせるかたわら,晩年の傑作《悲しみの青春》(1970)では《ミラノの奇蹟》以来の変わらぬ繊細でみずみずしいいぶきを感じさせた。
執筆者:吉村 信次郎
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…1948年製作のイタリア映画。〈日常性のネオレアリズモ〉を主張した脚本家チェーザレ・ザバッティーニとビットリオ・デ・シーカ監督のコンビの最高傑作とうたわれる名作。失業という終戦直後の社会的現実を反映したテーマ以上に,ひとりの男が盗まれた自転車を捜し求めて24時間の間都会の中をさまよい歩く姿をドキュメンタリーのようにとらえてみせたその〈リアリズム〉が,映画の〈物語性〉〈ドラマ性〉を剝奪することによって〈シネマトゥルギー〉を変革したといわれ,その後数え切れないほどの模倣作品を生んだという意味でも世界中にもっとも大きな影響を与え,戦後の映画史を形成する最初のもっとも重要な作品となった。…
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[誕生と発展]
戦後のイタリアでは,ナチス・ドイツ軍の過酷な弾圧に対する抵抗運動や貧困と生活苦などをテーマにした数々のイタリア映画の傑作が生まれた。ロベルト・ロッセリーニ監督《無防備都市》(1945),《戦火のかなた》(1946),ビットリオ・デ・シーカ監督《靴みがき》(1947),《自転車泥棒》(1948),ルキノ・ビスコンティ監督《揺れる大地》(1948),等々である。これらの作品に共通する現実告発の厳しい態度ときわめてドキュメンタリー的な撮影方法,主人公は貧しく,主としてしろうとを使い,ロケを主体とする現場主義,即興的演出(同時録音はせずに,せりふもすべてアフレコだった),生きたスラングや方言の採用,さらにクローズアップを少なく,ロング・ショットを多用したこと等々に対して,人々は新しいリアリズムの誕生という意味で〈ネオレアリズモ〉と呼んだ。…
※「デシーカ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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