ヨーロッパ考古学で,住居や墓以外の場所に多数の遺物を意図的に埋め納めた遺構,および遺物をさす。イギリスではホードhoardと呼ぶ。同じ概念はアメリカ考古学でも用い,キャッシュcacheと呼んでいる。日本考古学では,この概念は一般化していないが,〈埋納〉の語をあてたい。なお単数出土の遺物はデポの本来の概念からはずれるが,最近では単数出土もデポに含めようという提案もある。埋納用の施設は,ただ穴を掘っただけのものから,石を組んだ構造のものまであり,また遺物をむき出しのまま埋納したとみられるもの,木のケース,土器,青銅容器,皮,布などに収めて埋納したとみられるものがある。
デポの目的としては次のような種類があげられている。(1)宝物のデポ 宝物を埋め隠したとみられるもので,埋蔵貨幣をこれに含める研究者と,別種に扱う人とがある。(2)〈商人〉のデポ 青銅器の新品,刃のみで柄がついてない短剣や鎌などの未完成品を埋納したり,青銅のインゴット(特定の形に整えた合金の素材)やコハクなど特定の遺物のみを集中的に埋納したもの。渡り歩く〈商人〉が埋め隠したとみるにふさわしい。(3)〈鋳物師〉のデポ 鋳型から取り出したままで,仕上げ終わっていない青銅器の新品,再鋳用の地金として回収された青銅器の旧品・破損品,青銅のインゴット,製錬や鋳造に際して生じた青銅のかす,鋳型,砥石などをまとめて埋納したもの。渡り歩く〈鋳物師〉の道具・素材一式とみるにふさわしい。(4)奉納(献)のデポ 神聖な泉,沼沢,岩や,天地の神霊などへのささげものを納めたとみられるもの。祭りを行ったのち,それに用いた祭具一式を廃棄したものも含まれよう。また磨製石斧を円形に配して置いたものなど,呪術の効力の及ぶ範囲を画したとみられるものをも含む。以上のうち(1)~(3)は不時の略奪,盗難を予想して,あるいは敵襲など突然の危機に際して埋め隠したり,二つの目的地に運ぶ荷物のうち,後で行く方の荷を道の分岐点付近に埋め隠すなど,いずれにせよ将来再び回収する意図で埋め隠したのにかかわらず,埋納した人が死んだり,埋め隠した地点がわからなくなったりした結果,土中に残されたものである。(4)の奉納のデポは,当初から回収を意図することなく埋納したものである。(2)(3)は交通路など地域間の交流の実態を知るうえでも,また遺物の年代変遷を研究する一括遺物としても重要な資料である。一方(4)には,時代の異なった遺物からなり,何百年も引き続いて埋納されていたことが判明するものもある。
ヨーロッパでは,すでに新石器時代に石斧の完成品・未成品のデポが多いが,青銅器時代に(2)と(3)のデポが最も豊富である。中国では,殷代に青銅祭器のデポがあり,窖蔵(あなぐら)/(こうぞう)と呼ばれている。六朝代には,地金用に古い鉄器をあつめた例もある。日本においては,先土器時代に石斧や石槍のデポとみられるもの(長野県神子柴(みこしば),福井県鳴鹿山麓)がある。弥生時代の銅鐸,武器形祭器には単独出土例も多いが,デポの一種としてよいだろう。福岡県沖島の沖ノ島祭祀遺跡(5~6世紀)も奉納のデポである。
→祭祀遺跡
執筆者:佐原 眞
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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