翻訳|Tocharian
東トルキスタンのトゥルファン,カラシャール,クチャなどで発見されたインド系のブラーフミー文字文献中の言語。トハラ語ともいう。系統的にはインド・ヨーロッパ語族に属し,独立した一語派をなす。地理的に見れば,インド・ヨーロッパ語族中でインド・アーリヤ諸語と並びその最も東に位置している。トカラ語文献はおよそ6世紀から8世紀の間に書かれたものと推定されるが,この言語は10世紀ごろにはウイグル族に征服され死語になったものと思われる。トカラ語はA語,B語の2種に分類できる。しかしA・B間にみられる言語特徴の違いが何によるものかはまだ決定されていない。A語は仏典にのみ用いられ,B語より整理された構造をもつことから,これを仏典用文語であったとし,一方,B語はいくつかの小方言を内在し,仏典のほかに手紙や医学書などの世俗文献を書き残しているので,口語とする説が有力である。トカラ語という名称は,この言語(A語)がウイグル族によってトクリ(トフリ)Toxiri語と呼ばれていたとするドイツの学者F.W.K.ミュラーの見解にもとづくものだが,これは必ずしも適当ではなく,トカラA語をその文献の出土地域の中心であるカラシャールの旧名をとってアグニ語とし,B語をクチャ語あるいはクチ語と呼ぶことが行われる。トカラ語はインド・ヨーロッパ語のいくつかの古い特徴を保存しているが,他のどの語派と近親関係にあるかはまだ不明である。
執筆者:庄垣内 正弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
19世紀末から20世紀初頭にかけて、現在中国領に属する東トルキスタン、シルク・ロードが通ずるタリム盆地の砂漠から発見された7~8世紀の文献によって知られる言語。1908年、ドイツの学者ジークEmil SiegおよびジークリングWilhelm Sieglingによって解読され、印欧語に属する一言語であることが判明した。現存する資料は、ブラーフミー文字で書かれ、主としてサンスクリット語の仏典の翻訳であるが、なかには隊商のための通行許可書なども含まれている。A・B二つの方言が区別され、最近は前者を「トゥルファン方言」、後者を「クチャ方言」とも称する。早くからこの地方に進出した、チュルク系ウイグル語に吸収されて消滅したこの言語を話していた民族については不詳だが、イラン系トカラ人とはまったく別で、したがってトカラ語という名称はかならずしも適切な命名とはいえない。この言語は印欧語のなかでもっとも東方に位置するにもかかわらず、インド語、イラン語、スラブ語などを含む「サテム群」ではなく、ギリシア語、ラテン語、ゲルマン語など西方の「ケントゥム群」に属する。言語的特徴としては、子音に有声・無声、有気・無気の区別がなく、そのかわりに口蓋(こうがい)化が発達し、名詞は九つの格を区別し、語尾変化が膠着(こうちゃく)語的であるなど、特異な発達を示す反面、動詞の活用組織などに印欧語の古い相をよく保存している。ヒッタイト語とともに印欧語系の新たな言語として近年重要視されている。
[松本克己]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加