改訂新版 世界大百科事典 「トンガ族」の意味・わかりやすい解説
トンガ族 (トンガぞく)
Tonga
南部アフリカに居住するバントゥー系の農耕民。ザンビアとモザンビーク南部に居住するものをともにトンガ族と呼ぶ。
(1)ザンビアのトンガ族は言語の系統では中央バントゥーに属し,人口は約25万。三つのグループに分かれているが,互いに文化的には近い。北東部に居住する高原トンガ,ザンビアとボツワナの国境地帯の南トンガ,そして中部のザンベジ川中流域に住む河谷トンガである。いずれも,トウモロコシ,モロコシなどの雑穀を主食用作物とし,まめ,ラッカセイなどの商品作物を栽培する。ザンビア南部のコッパー・ベルト(銅鉱床地帯)への食糧供給を担っている。牛も飼育し,その社会的・儀礼的価値は大きいため,農牧民と呼ぶのがふさわしい。中央バントゥーに特徴的なことだが,トンガ族の社会は母系制をとっており,出自,相続,継承が母から娘へと女性のラインでたどられる。しかし,婚姻形態は母系制に珍しく一夫多妻制をとっている。このように母系出自でありながら複数の妻があるため,単系の分枝組織であるリネージが複雑化し,その結果,村落の結合がルーズになっている。トンガ族の社会はクランにより構成されるが,それはやや統合性に欠ける傾向がある。そしてクラン以上の集権的な政治組織をもたなかった。ザンベジ川中流域に住む河谷トンガは,カリバ・ダムの建設(1959完成)によって居住地の移転を迫られた。トンガ族は雨乞儀礼も行う。
(2)南部アフリカのモザンビーク南部のトンガ族は人口100万におよぶ。言語の系統では南東バントゥーに属し,カフィールコーンと呼ばれる雑穀やトウモロコシを栽培し,牛も飼育する。社会は父系のリネージが単位で,リネージの世襲の長が,争いの調停や,先祖へ犠牲をささげる世話を行う。かつては最高首長が存在し,農耕の種々の段階(播種,初穂,収穫)で儀礼を行い,また専門の雨乞師をかかえ,雨乞儀礼も執行した。
執筆者:赤阪 賢
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報