インドネシア西部,スマトラ西海岸沖のインド洋上の島。面積4772km2。人口約35万。主都はグヌンシトリ。地形は丘陵性で,最高点は中央部で886m。住民はプロト・マレー系のニアス族で,特有の慣習・言語をもつことで知られ,その神話・伝説もきわめて豊かなものがあり,19世紀末以来世界各国の民族学者の研究対象となっている。巨石文化がよく発達しており,家の前,村の広場の周囲などに巨石の彫像が数多く見られる。これらの巨石はニアス族の宗教と結びついており,祖先の霊,悪魔と戦う天空のロワランギ神をはじめとする神々にささげられたものである。死者は橋を渡って天国か地獄へ行くが,そのとき聖猫が護衛をしてくれるという信仰などは,インドのナガ族の信仰と類似しており,ニアス族とナガ族は起源を同じくするのではないかとも推測されている。コプラ,バナナなどをスマトラ本島へ移出する。
執筆者:別技 篤彦
ニアス島では,人間の手になる事物や人間の行為のすべてが,超越的存在と関係をもつとみなされる。たとえば村の入口は下流を意味して下界を,首長の家のある中心部は上流を示して天上界を象徴し,また各家の床下の基礎構造の下界は,2階の居住部の天上界と階段によって結ばれる。造形作品に頻出する鳥と蛇(またはワニ,サメ,トカゲ)の組合せも,天上界と下界との融合を示し,色彩的にも貴族の黄と平民の赤(または黒)が対立する。また各家の前に置かれる巨石には,垂直に立てられたもの(男性)と水平に横たえられたもの(女性)がある。木彫には,裁判などの限定された目的のために用いられるアドゥがあり,多くは男女両性を具有している。
執筆者:木村 重信
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
インドネシア西部、スマトラ島西岸北部の沖合いに位置する島。北西―南東方向に細長く、面積は4772平方キロメートル。全島丘陵性の地形をなし、地質的には新生代第三紀の地層からなる。また、密林に覆われており、海岸にはサンゴ礁が発達している。住民はニアス人で独自のことばをもち、大部分が原始宗教を信仰するほかキリスト教徒もいる。杭上(こうじょう)家屋に居住し、コプラ、バナナ、トウモロコシなどを栽培したり、ブタや野生のスイギュウを飼育してスマトラ島本土のシボルガ、パダンなどの都市へ出荷する。集落は大部分が沿岸部に立地し、東岸のグヌンシトリが中心集落である。民族学上きわめて興味深い巨石文化の遺跡が随所にみられ、また「石飛び」「戦いの踊り」などの伝統芸能が今日でも温存されている。これらのものを観光資源にして、近年島の観光開発が進められている。行政上はスマトラ・ウタラ州に属する。
[上野福男]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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