日本大百科全書(ニッポニカ) 「ノリス」の意味・わかりやすい解説
ノリス
のりす
Frank Norris
(1870―1902)
アメリカの小説家。正式には、Benjamin Franklin Norris。アメリカ自然主義文学の先駆者。シカゴの富裕な宝石商の子として生まれ、幼時サンフランシスコに移住。14歳のときパリに遊学、帰国後1890年にカリフォルニア大学に入学、学内誌に短編を発表し、『マクティーグ』(1899刊)に着手、1894年にハーバード大学の聴講生になり、『バンドーバーと野獣』(1914、没後刊)を書き始める。1895年に新聞記者として南アフリカに行くが病を得て1896年に帰国、以後、サンフランシスコの週刊紙『ウェーブ』の記者として活躍する一方、処女作『レディ・レティ号のモラン』(1898)を発表し、作家としての地位を確立した。ノリスはゾラや社会進化論の影響を受け、遺伝と環境の力によって破滅する人間の姿を描いたが、同時に、壮大な冒険を好むロマンス作家の一面もあった。この特質は「小麦三部作」のうち、鉄道資本と西部農民の抗争を扱った叙事詩的小説『オクトパス(たこ)』(1901)、シカゴの小麦取引を描く『小麦取引所』(1903)に顕著であるが、第三部『狼(おおかみ)』はノリスが夭折(ようせつ)したため完成しなかった。文学理論として、文体よりも真実を語ることを重視するノリスの主張は、評論集『作家の責任』(1903)にまとめられている。
[井上謙治]
『八尋昇訳『オクトパス』(1983・彩流社)』