アメリカの小説家。正式には、Benjamin Franklin Norris。アメリカ自然主義文学の先駆者。シカゴの富裕な宝石商の子として生まれ、幼時サンフランシスコに移住。14歳のときパリに遊学、帰国後1890年にカリフォルニア大学に入学、学内誌に短編を発表し、『マクティーグ』(1899刊)に着手、1894年にハーバード大学の聴講生になり、『バンドーバーと野獣』(1914、没後刊)を書き始める。1895年に新聞記者として南アフリカに行くが病を得て1896年に帰国、以後、サンフランシスコの週刊紙『ウェーブ』の記者として活躍する一方、処女作『レディ・レティ号のモラン』(1898)を発表し、作家としての地位を確立した。ノリスはゾラや社会進化論の影響を受け、遺伝と環境の力によって破滅する人間の姿を描いたが、同時に、壮大な冒険を好むロマンス作家の一面もあった。この特質は「小麦三部作」のうち、鉄道資本と西部農民の抗争を扱った叙事詩的小説『オクトパス(たこ)』(1901)、シカゴの小麦取引を描く『小麦取引所』(1903)に顕著であるが、第三部『狼(おおかみ)』はノリスが夭折(ようせつ)したため完成しなかった。文学理論として、文体よりも真実を語ることを重視するノリスの主張は、評論集『作家の責任』(1903)にまとめられている。
[井上謙治]
『八尋昇訳『オクトパス』(1983・彩流社)』
アメリカの小説家。シカゴの富裕な宝石商の子として生まれ,サンフランシスコで育った。2年間のパリ生活ののちカリフォルニア大学,ハーバード大学で学んだ。サンフランシスコで記者となり,週刊誌《ウェーブ》で精力的に活躍したが,1898年海洋冒険小説《レディ・レッティ号のモラン》で注目され,ニューヨークに移った。ついで発表した《マクティーグ》(1899)では,遺伝と環境の力によって破滅する人間の姿を描き,自然主義文学の旗手となった。その作風にはゾラの写実的手法と,カリフォルニアの自然を背景にしたロマンス的要素も含まれ,〈小麦三部作〉の《オクトパス》(1901),《穀物取引所》(1903)でいっそう顕著になるが,第3部《狼》は未完に終わった。98年ダブルデー社の出版顧問となり,T.ドライサー《シスター・キャリー》の出版に尽力した。死後《バンドーバーと獣性》(1914)や,文体より思想を重視することを主張した評論集《作家の責任》(1903)が出た。
執筆者:井上 謙治
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… リアリズム全盛時代の文壇の大御所はW.D.ハウエルズである。彼は《アトランティック・マンスリー》誌の編集者などとしてトウェーンやH.ジェームズらの作品を世に送り出したばかりか,ノリス,S.クレーンなどの若い作家の育成にも努めた。ジェームズは,ヨーロッパに住むアメリカ人という国際的な状況と,ホーソーン的倫理観とを心理主義的に作品化することに優れ,《ある婦人の肖像》(1881)などを発表した。…
… 同じことはイギリス以外の国でもみられる。アメリカでは西部開拓の先頭に立った鉄道に対し,素朴な敬意を表し,機関車の力と躍動美を詩でたたえたホイットマンがいた反面,大陸横断鉄道を大地と庶民の血を吸ってふくれ上がる醜悪な〈タコ〉(F.ノリスの小説(1901)の表題である)にたとえる者もいた。トルストイは《アンナ・カレーニナ》(1875‐77)の中で,鉄道を神意の代行者として描いたが,ゾラは《獣人》(1890)において,個人の意志とは無関係に遺伝と環境によってはじめから決定づけられている人間を,破滅に向かって暴走する機関士もいない列車,それにまったく気づかない酔っぱらった乗客として描き,機関車を生物学的決定論の化身として登場させた。…
※「ノリス」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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