フランスの社会学者、思想家。ユダヤ系の家庭に生まれ、第二次世界大戦中は対独レジスタンス運動に参加。パリ大学で歴史学・地理学・法学を学ぶ。フランス国立科学研究所(CNRS)研究員(1950~1989)、同主任研究員・研究部長(1970~1993)、同名誉研究部長、社会科学高等研究院(エコール・デ・オート・ゼチュード)(社会学・人類学・政治学)学際研究センター所長を歴任(1973~1989)。また、雑誌『アルギュマン』の編集主任(1956~1962)や『コミュニカシオン』誌の編集担当(1962~)をも務める。1984年(昭和59)と1989年(平成1)に来日している。1987年『ヨーロッパを考える』でヨーロッパ・エッセイ賞を受け、また1994年国際カタルーニャ賞を受賞。彼は社会的現実を、社会学の専門的な枠組みを超えたところからとらえようとしている。社会現象にせよ文化現象にせよ、それは同時に地理的・歴史的・経済的……現象だからである。また突発的なできごとにしても、それは意味を伝える情報であり、社会生活の仕組みやシステムの機能の理解に役だつ点で、無視すべきでないという。危機はいくつかのできごとで告知され、変革―進化の要素を生むからである。こういう視点をモランは「現在あるものの社会学」あるいは「できごとの社会学」と称して、既存の社会学に挑戦している(『オルレアンのうわさ』1969)。主著に『人間と死』(1951)、『映画――想像のなかの人間』(1956)、『プロデメの変貌(へんぼう)』(1967)、『失われた範列――人間の自然性』(1973)、『二十世紀からの脱出』(1981)、『意識ある科学』(1982)、『祖国地球』(1993)などがある。さらに1977年から大作『方法』(全6巻)を執筆し、第1巻『自然の自然』(1977)、第2巻『生命の生命』(1980)、第3巻『認識の認識』(1986)、第4巻『観念』(1991)、第5巻『人間の証明』(2001)、第6巻『Éthique』(2004)が刊行され、社会科学の位置と人間の精神的目的との関連を追究している。
[佐藤智雄・高島昌二]
『杉山光信訳『映画 想像のなかの人間』(1971・みすず書房)』▽『古田幸男訳『人間と死』原著第2版(1973・法政大学出版局)』▽『古田幸男訳『失われた範列――人間の自然性』(1975・法政大学出版局)』▽『エドガール・モラン著、林瑞枝訳『カリフォルニア日記――ひとつの文化革命』(1975・法政大学出版局)』▽『エドガール・モラン著、渡辺淳・山崎正巳訳『スター』原著第3版(1976・法政大学出版局)』▽『宇波彰訳『プロデメの変貌』(1975・法政大学出版局)』▽『エドガール・モラン著、宇波彰訳『時代精神1、2』(1979、1982・法政大学出版局)』▽『大津真作訳『方法1 自然の自然』『方法2 生命の生命』『方法3 認識の認識』『方法4 観念――その生息場所、その生命、その習俗、その組織』『方法5 人間の証明』(1984、1991、2000、2001、2006・法政大学出版局)』▽『村上光彦訳『意識ある科学』(1988・法政大学出版局)』▽『林勝一訳『ヨーロッパを考える』(1988・法政大学出版局)』▽『エドガール・モラン著、古田幸男訳『ドイツ零年』(1989・法政大学出版局)』▽『エドガール・モラン著、浜名優美・福井和美訳『出来事と危機の社会学』(1990・法政大学出版局)』▽『秋枝茂夫訳『二十世紀からの脱出』(1991・法政大学出版局)』▽『エドガール・モラン著、古田幸男・中村典子訳『複雑性とはなにか』(1993・国文社)』▽『菊地昌実訳『祖国地球――人類はどこへ向かうのか』(1993・法政大学出版局)』▽『杉山光信訳『オルレアンのうわさ』新装第2版(1997・みすず書房)』▽『菊地昌実・高砂伸邦訳『E.モラン自伝――わが雑食的知の冒険』(1999・法政大学出版局)』
フランスの詩人、小説家。裕福なパリの家庭に育ち、高等政治学院、オックスフォード大学に学んで外交官となる。第一次世界大戦とその戦後の外交の裏面に立ち会うとともに、プルースト、コクトーらと親交を結び、詩集『アーク灯』(1919)、短編集『三人の女』(1921)でデビュー。コスモポリタンというよりむしろあくまでヨーロッパ的価値の視線から、しかし鋭い描写力をもって1920年代世界の都市生活を描いた。『夜ひらく』Ouvert la Nuit(1922)、『夜とざす』Fermé la Nuit(1923)、『ルイスとイレーヌ』Lewis et Irène(1924)などの小説、『ニューヨーク』(1929)、『ロンドン』(1933)、『ブカレスト』(1935)の三作を頂点とする都市の肖像などがある。第二次大戦中ビシー政権の外交にかかわったため、戦後の復権が遅れたが、68年アカデミー会員に迎えられた。戦後の作品に、短編集『ヘカテと犬たち』Hécate et ses chiens(1954)、旅行記『ベニス』(1971)などがある。日本では、堀口大学の翻訳を通じて『夜ひらく』(1924・新潮社)が大正末年に新感覚派に影響を与えたことが指摘されている。
[小林 茂]
フランスの作家。外交官としてヨーロッパの各地に赴き,〈文学の世界旅行者〉たらんとした。詩集《アーク灯》(1919)によって文壇に登場したが,コスモポリティスム文学の旗手と目されるようになったのは《三人女》(1921),《夜ひらく》(1922),《夜とざす》(1923)の小説3作によってである。あとの2作は堀口大学によって邦訳され,新感覚派を生んだことは有名。両大戦間の,激しく変貌しつつある世界の描写に優れた手腕をふるった。旅行記,年代記の類も多い。第2次大戦中ビシー政権によってルーマニア大使に任ぜられたため,戦後長く国外にとどまらざるをえなかったが,1968年アカデミー・フランセーズ会員に選出された。
執筆者:岩崎 力
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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