モラン(読み)もらん(英語表記)Paul Morand

日本大百科全書(ニッポニカ) 「モラン」の意味・わかりやすい解説

モラン(Edgar Morin)
もらん
Edgar Morin
(1921― )

フランスの社会学者、思想家。ユダヤ系の家庭に生まれ、第二次世界大戦中は対独レジスタンス運動に参加。パリ大学で歴史学・地理学法学を学ぶ。フランス国立科学研究所(CNRS)研究員(1950~1989)、同主任研究員・研究部長(1970~1993)、同名誉研究部長、社会科学高等研究院(エコール・デ・オート・ゼチュード)(社会学・人類学・政治学)学際研究センター所長を歴任(1973~1989)。また、雑誌『アルギュマン』の編集主任(1956~1962)や『コミュニカシオン』誌の編集担当(1962~)をも務める。1984年(昭和59)と1989年(平成1)に来日している。1987年『ヨーロッパを考える』でヨーロッパ・エッセイ賞を受け、また1994年国際カタルーニャ賞を受賞。彼は社会的現実を、社会学の専門的な枠組みを超えたところからとらえようとしている。社会現象にせよ文化現象にせよ、それは同時に地理的・歴史的・経済的……現象だからである。また突発的なできごとにしても、それは意味を伝える情報であり、社会生活の仕組みやシステムの機能の理解に役だつ点で、無視すべきでないという。危機はいくつかのできごとで告知され、変革―進化の要素を生むからである。こういう視点をモランは「現在あるものの社会学」あるいは「できごとの社会学」と称して、既存の社会学に挑戦している(『オルレアンうわさ』1969)。主著に『人間と死』(1951)、『映画――想像のなかの人間』(1956)、『プロデメの変貌(へんぼう)』(1967)、『失われた範列――人間の自然性』(1973)、『二十世紀からの脱出』(1981)、『意識ある科学』(1982)、『祖国地球』(1993)などがある。さらに1977年から大作『方法』(全6巻)を執筆し、第1巻『自然の自然』(1977)、第2巻『生命の生命』(1980)、第3巻『認識の認識』(1986)、第4巻『観念』(1991)、第5巻『人間の証明』(2001)、第6巻『Éthique』(2004)が刊行され、社会科学の位置と人間の精神的目的との関連を追究している。

[佐藤智雄・高島昌二]

『杉山光信訳『映画 想像のなかの人間』(1971・みすず書房)』『古田幸男訳『人間と死』原著第2版(1973・法政大学出版局)』『古田幸男訳『失われた範列――人間の自然性』(1975・法政大学出版局)』『エドガール・モラン著、林瑞枝訳『カリフォルニア日記――ひとつの文化革命』(1975・法政大学出版局)』『エドガール・モラン著、渡辺淳・山崎正巳訳『スター』原著第3版(1976・法政大学出版局)』『宇波彰訳『プロデメの変貌』(1975・法政大学出版局)』『エドガール・モラン著、宇波彰訳『時代精神1、2』(1979、1982・法政大学出版局)』『大津真作訳『方法1 自然の自然』『方法2 生命の生命』『方法3 認識の認識』『方法4 観念――その生息場所、その生命、その習俗、その組織』『方法5 人間の証明』(1984、1991、2000、2001、2006・法政大学出版局)』『村上光彦訳『意識ある科学』(1988・法政大学出版局)』『林勝一訳『ヨーロッパを考える』(1988・法政大学出版局)』『エドガール・モラン著、古田幸男訳『ドイツ零年』(1989・法政大学出版局)』『エドガール・モラン著、浜名優美・福井和美訳『出来事と危機の社会学』(1990・法政大学出版局)』『秋枝茂夫訳『二十世紀からの脱出』(1991・法政大学出版局)』『エドガール・モラン著、古田幸男・中村典子訳『複雑性とはなにか』(1993・国文社)』『菊地昌実訳『祖国地球――人類はどこへ向かうのか』(1993・法政大学出版局)』『杉山光信訳『オルレアンのうわさ』新装第2版(1997・みすず書房)』『菊地昌実・高砂伸邦訳『E.モラン自伝――わが雑食的知の冒険』(1999・法政大学出版局)』


モラン(Paul Morand、フランスの詩人、小説家)
もらん
Paul Morand
(1888―1976)

フランスの詩人、小説家。裕福なパリの家庭に育ち、高等政治学院、オックスフォード大学に学んで外交官となる。第一次世界大戦とその戦後の外交の裏面に立ち会うとともに、プルースト、コクトーらと親交を結び、詩集『アーク灯』(1919)、短編集『三人の女』(1921)でデビュー。コスモポリタンというよりむしろあくまでヨーロッパ的価値の視線から、しかし鋭い描写力をもって1920年代世界の都市生活を描いた。『夜ひらく』Ouvert la Nuit(1922)、『夜とざす』Fermé la Nuit(1923)、『ルイスとイレーヌ』Lewis et Irène(1924)などの小説、『ニューヨーク』(1929)、『ロンドン』(1933)、『ブカレスト』(1935)の三作を頂点とする都市の肖像などがある。第二次大戦中ビシー政権の外交にかかわったため、戦後の復権が遅れたが、68年アカデミー会員に迎えられた。戦後の作品に、短編集『ヘカテと犬たち』Hécate et ses chiens(1954)、旅行記『ベニス』(1971)などがある。日本では、堀口大学の翻訳を通じて『夜ひらく』(1924・新潮社)が大正末年に新感覚派に影響を与えたことが指摘されている。

[小林 茂]


モラン(Paul Morin、カナダの詩人)
もらん
Paul Morin
(1889―1963)

カナダの詩人。フランス系。長年にわたってパリで生活。サロンに出入りし、19世紀後半のフランス高踏派の影響を強く受けた造形的な美や、カナダの詩人には珍しく異国情緒を追う作品を書いている。カナダよりむしろフランスの詩人というべきかもしれない。『七宝(しっぽう)の孔雀(くじゃく)』(1911)、『灰と黄金(こがね)の詩編』(1922)、『ジェロントと鏡』(1960)などの詩集があり、詩型の格調の高さで知られる。

[西本晃二]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「モラン」の意味・わかりやすい解説

モラン
Morin, Jean

[生]1591. ブロア
[没]1659.2.28. パリ
フランスの神学者。歴史神学者の一人。ラテン名 Johannes Morinus。カルバン派の家に生れ,ロシェル,ライデンで古典語を学び,パリに移ってローマ・カトリックに改宗。 1618年オラトリオ会士となり,以後ほとんど古代神学と聖書の原典批判に専念した。『コンスタンチヌス帝のキリスト教会解禁の歴史』 Histoire de la délivrance del'église chrétienne par l'empereur Constantin (1630) はローマを,また改悛の秘跡に関する労作はイエズス会とポール=ロワイヤルの両陣営を怒らせた。聖書研究ではヘブライ語聖書の完全性を否定し,死後まで続く激しい論争を引起した。 45年のパリの多国語対訳聖書のなかに編んだサマリア語訳のモーセ五書タルグムは,この面の研究の先駆である。

モラン
Morand, Paul

[生]1888.3.13. パリ
[没]1976.7.23. パリ
フランスの作家。外交官として 1913年から 44年まで世界各地に駐在するかたわら,短編集『夜ひらく』 Ouvert la nuit (1922) ,『夜とざす』 Fermé la nuit (23) ,『恋のヨーロッパ』L'Europe galante (25) などを発表。スピード感あふれる文体とコスモポリタニズムによって,20年代のフランス文学に新風を吹込んだ。ほかに『恋する狂女』 La Fille amoureuse (56) ,『世紀末』 Fin de siècle (57) ,『愛のへだたり』 Les Écarts amoureux (74) など。アカデミー・フランセーズ会員 (68) 。

モラン
Moran, Edward

[生]1829.8.19. ボールトン
[没]1901.6.9. ニューヨーク
イギリス生れのアメリカの画家。 1845年頃アメリカに渡り,フィラデルフィアで絵を学んだのち,ロンドンのロイヤル・アカデミー・スクールに入学。 72年以降ニューヨークに住み,主として海洋画を描いた。『アメリカ海洋史』の挿絵は有名。弟の T.モランやピーター,息子のパーシーとレオンも画家として知られた。

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