ハエドクソウ(その他表記)lopseed
Phryma leptostachya L.var.asiatica Hara

改訂新版 世界大百科事典 「ハエドクソウ」の意味・わかりやすい解説

ハエドクソウ
lopseed
Phryma leptostachya L.var.asiatica Hara

丘陵の暗い林床にふつうにみられるハエドクソウ科の多年草。日本全土,朝鮮,中国,ベトナム,ヒマラヤに分布し,基本変種は北アメリカ東部に産す。第三紀周北極植物群の孤立遺存種とみなされる,1科1属1種の特異な植物である。茎は方形で分枝せず,直立して高さ50cm内外。葉は対生し,卵形で粗い鋸歯がある。7~8月ごろ,長さ20cmほどの細い穂状花序が頂生または上部の葉に腋生(えきせい)し,帯紅色~白色の小さな花を多数,対生につける。合弁花で花冠唇形。下唇は3裂し,上唇より大きい。おしべは4本で,上側の2本が長い。子房1室。胚珠は1個のみ。果実は,ヒユ科イノコズチの果実に似ており,筒状をなす萼の背面の3歯が硬い鉤(かぎ)状となり,人や動物に付着して散布される。根のしぼり汁をしみさせてハエ取り紙としたところから,〈蠅毒草(はえどくそう)〉という。殺虫性をもつ成分はフリマロリンphrymarolinとされている。中国でも全草を殺蛆(さつそ)剤として用いる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハエドクソウ」の意味・わかりやすい解説

ハエドクソウ
はえどくそう / 蠅毒草
[学] Phryma leptostachya L. subsp. asiatica (Hara) Kitam.

ハエドクソウ科(APG分類:ハエドクソウ科)の多年草。茎は高さ30~70センチメートル。葉は対生し、卵形で基部はやや切形状になる。6~8月、穂状花序をつくり、白色で淡紅紫色を帯びた小さな唇形花を横向きに開く。果実は下向きにつき、萼(がく)に包まれた形がイノコズチ(ヒユ科)に似ている。有毒植物で、名は、根の煎汁(せんじゅう)でハエを殺したことに由来する。丘陵から山地の林内に生え、日本全土、および朝鮮半島、中国、ヒマラヤ、シベリア東部に分布する。基本種のアメリカハエドクソウは北アメリカ東部にかけて分布する。

 ハエドクソウ科Phrymaceaeは、世界に1属1種の特異な科で、クマツヅラ科近縁である。

[高橋秀男 2021年10月20日]

 APG分類でもハエドクソウ科とされる。分子系統解析に基づく研究の結果、ミゾホオズキ属やスズメハコベ属などもハエドクソウ科に含まれることとなった。この分類による2018年のデータでは13属190種が知られ、世界に広く分布する。日本には3属5種が分布する。

[編集部 2021年10月20日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハエドクソウ」の意味・わかりやすい解説

ハエドクソウ(蠅毒草)
ハエドクソウ
Phryma leptostachya

ハエドクソウ科の多年草で,日本,朝鮮半島,中国,ヒマラヤ,東シベリアに分布し,山野の樹下に自生する。茎は直立し,高さ 60cm前後,葉は有柄で対生し,卵円形ないし長楕円形で,辺縁に鋸歯がある。夏,茎の先に細長い穂状花序をなして,小さな花を多数開く。花は径 5mmほどの唇形花冠をなし,淡紫色で花柄はほとんどない。花後,萼片の先がとげとなり,衣服などについて種子を散らす。有毒植物で,根の煎汁をハエを殺すのに使った。

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百科事典マイペディア 「ハエドクソウ」の意味・わかりやすい解説

ハエドクソウ

ハエドクソウ科の多年草。北海道〜九州,東アジアの林にはえる。高さ30〜70cm,葉は対生し,卵形〜長楕円形で縁には鋸歯(きょし)がある。夏,茎頂や葉腋に花穂を出し,多数の花をつける。花冠は淡紅色で長さ約5mm,唇形(しんけい),初め上向きであるが,花後下を向く。果実は【さく】果(さくか)で,イノコズチに似ていて動物にくっついて散布される。根の搾汁に紙を浸してハエ取紙としたのでこの名がある。

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