ハナギンチャク(読み)はなぎんちゃく(その他表記)tube anemone

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ハナギンチャク」の意味・わかりやすい解説

ハナギンチャク
はなぎんちゃく / 花巾着
tube anemone

腔腸(こうちょう)動物門花虫綱六放サンゴ亜綱ハナギンチャク目Cerianthariaに属する海産動物の総称。現在3科8属約40種が知られる。一般に砂泥地にすみ、細長い体と、上端の口盤の外縁と内縁とに2種類の糸状の触手をもつ。体表から分泌した粘液でつくった管の中にすむ。虫体下端には小孔がある。単生で、群体をつくることはない。一見イソギンチャク類に似るが、管の中にすむこと、内外二系列の触手をもつこと、下端に小孔をもつことなどがイソギンチャク類と異なる。口盤中央の口から短い円筒形の口道が胃腔内に垂れ下がり、その一方に管溝という凹溝がある。管溝は多くのイソギンチャクでは背腹2個あるが、ハナギンチャク類ではかならず1個であり、管溝のある側を便宜上腹側とする。管溝を中心に左右3対の隔膜はハナギンチャクが幼生のときに最初に出現するもので、原始隔膜とよばれ、それ以後の隔膜は虫体背部が成長することによって原始隔膜の左右へそれぞれ付加され、原始隔膜に対して後隔膜とよばれる。

 成体では最背部の発達途中の少数の隔膜を除き、すべてが口道に達する完全隔膜となる。後隔膜は口道下端からわずかに出るものと、それよりやや下方にまで達するものの2種類が交互に発達し、長いほうにも短いほうにもさらに長短2種類があり、これも交互に出現する。したがって、ハナギンチャク類の隔膜は、6枚の原始隔膜の両側に4枚の隔膜を1組とした後隔膜の組が次々と付加されていく。隣り合った2枚の隔膜の間、すなわち隔膜腔の上方の縁端および口端から各1本の触手が出る。縁触手は口触手に比べて太くて長い。イソギンチャク類では放射状に配列する隔膜の隣り合った隔膜の間から新たな隔膜が発達する。したがって新しい隔膜の発達は虫体の全周にわたっておこる。しかし、ハナギンチャク類では隔膜は虫体の最背部の1点からだけ新生され、この点がイソギンチャク類ともっとも異なる点である。生殖腺(せん)は長いほうの後隔膜中に発達する。

 日本からは第2原始隔膜だけが突出して長く、ほとんど虫体下端に達するムラサキハナギンチャクCerianthus filiformisや、第1後隔膜が最長となるヒメハナギンチャクPachycerianthus magnusなどが知られる。ハナギンチャク類は一般に長生きで、50年以上の寿命をもつ。幼生は一般に長い浮遊期をもち、その後着底し、底生生活に入るが、ヒメハナギンチャクは直達発生で、母体から出た幼生は遊泳することがなく、すぐに着底して小形のハナギンチャクに変態する。

[内田紘臣]


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改訂新版 世界大百科事典 「ハナギンチャク」の意味・わかりやすい解説

ハナギンチャク (花巾着)

花虫綱ハナギンチャク科Cerianthidaeに属する腔腸動物刺胞動物)の総称。暖海域に分布し,内湾の数十mまでの砂や泥の海底中で,粘液でつくった泥の管の中にすむ。体は長さ10~25cmの円筒状で,前端に口盤があり,後端はしだいに細くなったり,球状に終わっている。体色は褐色や紫色。口盤は直径1.5~5cmで,口盤の中央にある口丘の周囲を短い口触手が1列にとり巻き,さらに口盤の周囲にも50~250本の非常に長い縁触手がとり巻いている。触手の内側には1本の溝があって,とらえた食物がここを通って口へ運ばれる。管の中にホウキムシが共生している。ムラサキハナギンチャクCerianthus filiformisは紫色で,開いた触手環の直径は30cmほどになる。ヒメハナギンチャクPacycerianthus magnusは小型で,触手環の直径は10cm内外,触手に白い縦の線がある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ハナギンチャク」の意味・わかりやすい解説

ハナギンチャク
Cerianthus; tube anemone

刺胞動物門花虫綱六放サンゴ亜綱ハナギンチャク目ハナギンチャク科ハナギンチャク属に属する種の総称。体高 20~25cmの円筒状。後端はしだい細くなるか,球状に終わっており,イソギンチャク(→イソギンチャク類)のような足盤はない。口盤は直径 1.5~5cmで,中央にある口丘の周囲には口触手が 1列に並び,口盤の外縁にも太くて非常に長い縁触手が 50~250本も並んでいる(→触手)。海岸の干潮線付近から数十mの海底の砂地にすみ,体壁からの分泌物でつくった管の中に入っている。オオハナギンチャク C. orientalis やムラサキハナギンチャク C. filiformis などが知られており,ムラサキハナギンチャクの管の中にはしばしばホウキムシ共生している。広義にはハナギンチャク目の総称として使われることもある。ハナギンチャク目は世界で約 40種が知られている。(→刺胞動物花虫類無脊椎動物

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