改訂新版 世界大百科事典 「はやり目」の意味・わかりやすい解説
はやり目 (はやりめ)
アデノウイルスを病原菌とする伝染力の強い結膜炎を総称する俗語。アデノウイルスには1~33型までの型があるが,このなかで8型によるものを流行性角結膜炎epidemic kerato-conjunctivitis(EKCと略称)と称し,狭義の〈はやり目〉とする。3型によるものは咽頭結膜熱pharyngo-conjunctival fever(PCFと略称)と呼ばれるが,プールで伝染することも多いことから〈プール熱〉と俗称される。そのほか1,7,11,19型でも類似の症状を呈し,臨床的には鑑別困難である。
流行性角結膜炎は,最も強い眼症状を呈する。5~12日の潜伏期を経て発症し,乳幼児では,眼瞼腫張,結膜の浮腫,充血とともに,しばしば結膜に偽膜を形成する。発熱,咽頭炎等の感冒症状を伴うことも多い。成人では,同じく結膜の浮腫,充血,大量の眼脂とともに耳前リンパ節の腫張を伴う。結膜の症状が最盛期を過ぎた発症後7~14日ころから,約半数の症例で点状表層角膜炎が出現する。これは角膜実質の浅層に点状に集族する細胞浸潤巣であり,異物感と羞明(しゆうめい)の原因となる。結膜症状は2~3週で収束するが,点状表層角膜炎による白点混濁は長く持続し,半年から数年に及ぶ場合もある。しかし,この混濁が大きな視力低下をきたすことはまれである。
咽頭結膜熱は潜伏期がやや短く5,6日であり,結膜炎症状は流行性角結膜炎のときより軽い。点状表層角膜炎を伴うことはまれで感冒症状を伴うことが多い。
流行性角結膜炎の治療については,アデノウイルスに対して有効な薬がない現在,積極的方法はない。混合感染予防の目的で抗生物質を用いるが補助的なものである。点状表層角膜炎治療のためにステロイド点眼を行うことがあるが,ヘルペス角膜炎を誘発する危険があり慎重にすべきである。最大の目標は感染の拡大を防ぐ点におき,患者,周囲の者はセッケンを使用し十分かつ頻繁に手を洗い,タオル等の共用を避ける。発症後2週間は感染力があると考え,上の注意とともに,プールの遊泳も厳禁する。
→結膜
執筆者:佐藤 孜
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報