日本大百科全書(ニッポニカ) 「バイエル石」の意味・わかりやすい解説
バイエル石
ばいえるせき
bayerite
水酸化アルミニウム鉱物。バイヤライト石ともいわれる。人工の水酸化アルミニウムAl(OH)3として製造され、鉱物としての産出が確認される以前に、薬品名として、1928年ドイツの冶金(やきん)学者カール・バイヤーKarl Josef Bayer(1847―1904)にちなんで命名されていた。天然での最初の産出はイスラエルのハトルリムHatrurim層という古第三紀の地層から発見され、その後ロシアのドニエプル地域やエニセイ山脈に分布する地質時代のボーキサイト鉱床からも発見された。日本での産出は未確認。ハトルリム層での場合は炭酸塩岩中に生成されたゲル状の水酸化アルミニウム化合物から限られたアルカリ性環境で沈殿したものとされ、ドニエプル地域では角閃(かくせん)石や輝石を覆う風化分解物中に確認された。
水酸化アルミニウムにはいくつかの変態が知られており、鉱物として産出するだけでも四相知られている。すなわち、ノルドストランド石、ギブス石、ドイル石doyleite(化学式δ(デルタ)-Al(OH)3)で、バイエル石はα(アルファ)相に相当する。実際にはギブス石に多型が知られているので、同質五像とする見解もある。自形は未報告であるが、合成物は電子顕微鏡下で六角板状。天然物は皮膜状あるいは微細柱からなる放射状集合。ハトルリム層の共存鉱物は、方解石、石膏(せっこう)、ファーター石vaterite(μ(ミュー)-Ca[CO3])、ソーマス石、ポートランド石portlandite(Ca(OH)2)、エットリンゲン石。他の水酸化アルミニウム鉱物と肉眼的に区別できない。純粋な場合は無色あるいは白色、劈開(へきかい)面上の独特の真珠光沢と完全な劈開。硬度は完全な劈開と相まって非常に低く感じられる。不純物が多い場合はわかりにくい。
[加藤 昭]