日本大百科全書(ニッポニカ) 「バルガス・リョサ」の意味・わかりやすい解説
バルガス・リョサ
ばるがすりょさ
Mario Vargas Llosa
(1936― )
ペルーの小説家。サン・マルコス大学とマドリード大学で文学を学んだのち、しばらくフランスで亡命者的な生活を送っていたが、軍関係の寄宿学校で過ごした少年時代の経験をもとにした『都会と犬ども』(1963)を発表して一躍注目を浴びる。アマゾンの密林地帯と小都市ピウラを舞台に五つの物語を同時に展開させる、実験的な小説『緑の家』(1965)により国際的な声価を得たあと、オドリア大統領独裁時代(1948~56)のペルー社会を、現代小説のさまざまな技法を駆使して描いた全体小説『ラ・カテドラルでの対話』(1969)を公刊する。
その後も『パンタレオン大尉と女たち』(1973)から、『世界終末戦争』(1981)を経て、『山羊(やぎ)の宴(うたげ)』(2000)に至るまで、3、4年に1冊の割で小説を発表し続けているが、その作風は初期の実験的なものから、しだいに伝統的な小説作法に向かっている観がある。そのほかの作品に、最初の作品集として『ボスたち』(1959)、中編『小犬たち』(1967)、トロツキストが主人公の『マイタの物語』(1983)、推理小説『誰(だれ)がパロミーノ・モレロを殺したか』(1986)がある。
小説のほかに『ガルシア・マルケス――ある神殺しの歴史』(1971)や、『果てしなき饗宴(きょうえん)――フロベールと「ボヴァリー夫人」』(1975)といった評論があり、1980年代以降、劇作にも意欲を燃やしているようで、『タクナの娘』(1981)、『キャシーとカバ』(1983)、『冗談』(1986)などの戯曲を発表している。また、自伝的な要素の濃い『フリア叔母さんと物書き』(1977)、回想録『水を得た魚』(1993)などがある。
1974年に外国生活にピリオドを打ち、ペルーに帰国。作家活動のかたわら民主主義を守る立場から積極的に政治的な発言を繰り返す。76年には国際ペンクラブ会長を務め(~79)、政治犯として投獄されている作家たちの釈放に奔走する。1979年(昭和54)に会長として初来日。87年には、中道右派連合「民主戦線」を結成、90年大統領選に出馬したが、アルベルト・フジモリに敗れる。その後、スペインに帰化した。
[桑名一博]
『鈴木恵子訳『小犬たち(ラテンアメリカ文学叢書)』(1978・国書刊行会)』▽『桑名一博・野谷文昭訳『ラ・カテドラルでの対話』(『ラテンアメリカの文学17』1984・集英社)』▽『高見栄一訳『パンタレオン大尉と女たち』(1986・新潮社)』▽『杉山晃訳『都会と犬ども』(1987・新潮社)』▽『工藤庸子訳『果てしなき饗宴』(1988・筑摩書房)』▽『旦敬介訳『世界終末戦争』(1988・新潮社)』▽『鼓直訳『誰がパロミノ・モレーロを殺したか』(1992・現代企画室)』▽『木村栄一訳『若い小説家に宛てた手紙』(2000・新潮社)』▽『木村栄一訳『緑の家』(新潮文庫)』