改訂新版 世界大百科事典 「ヒルデガルト」の意味・わかりやすい解説
ヒルデガルト(ビンゲンの)
Hildegard
生没年:1098-1179
ドイツ最初の女性神秘家。貴族の家柄に生まれ,幼少のころからその宗教的幻視で評判となる。女隠者ユッタJuttaから教育を受け,1114年ころ修道女となり,36年,ビンゲンBingen近郊ルペルツベルク女子修道院の長(マギステル)となる。一説では63年フリードリヒ1世(バルバロッサ)が彼女を修道院長に任じたという。みずから体験した幻視を1141-51年の間に《スキウィアス(主の道の知識)》として公刊し,教皇エウゲニウス3世の認可を得た。このころ〈ドイツのシビュラ(女預言者)〉と呼ばれ,クレルボーのベルナールら同時代人に広く影響を及ぼした。彼女はまた自然学,医学,薬学にも強い関心を払い,その観察は中世ではまれに見る高度なもので,しかもアラビア科学の痕跡が少ない点でも注目される。主著《自然学》は博物学と医学とに関する百科全書的著作で,特に薬草を含む植物に注意が払われているが,彼女によって初めてドイツ名を与えられた動植物は1000種にも及ぶという。
執筆者:今野 國雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報