ビクトリアアルバート美術館(読み)ビクトリアアルバートビジュツカン(その他表記)Victoria and Albert Museum

デジタル大辞泉 の解説

ビクトリアアルバート‐びじゅつかん〔‐ビジユツクワン〕【ビクトリアアルバート美術館】

Victoria and Albert Museumロンドンにある美術館。1851年のロンドン万博で得た収益もとに創設された産業博物館起源とする。英国工芸品や産業製品を中心に、各国家具衣服美術品なども収蔵名称は、ビクトリア女王とその夫アルバート公に由来

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日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

ビクトリア・アルバート美術館
びくとりああるばーとびじゅつかん
Victoria and Albert Museum

ロンドンにある工芸応用芸術の美術館。500万点以上の作品・資料を所蔵。140を超える展示室をもち、この分野では世界最大の規模を誇る。1851年ロンドンで開催された万国博覧会はイギリスの国力を顕示する一大イベントであったが、ビクトリア女王の夫君アルバート公は、万博で得た収益によって出品された工芸作品を購入し、これをもとに翌年、マールバラ公爵のために1711年に建てられ、王室が長きにわたり使用してきたマールバラ・ハウスに産業博物館を創設した。イギリスの産業製品や工芸品のデザインの水準を向上させること、作品を国民に公開しデザインの技術と原理に関する知識を普及させることなどを目的としたものであった。57年には現在地にサウス・ケンジントン美術館が建設されてその一部となった。99年に独立して増築するにあたり、ビクトリア女王により1861年に逝去した夫君アルバートの名とあわせた現在の名称が定められた。1901年に女王は崩御するが、1909年エドワード7世により新しい建物の開館式が行われた。

 今日では工芸・応用芸術作品のみならず美術作品をあわせて収集している。それは、デザイナーたちの着想の源泉ともいえる美術作品によってデザインの制作過程を裏づけることを意図しているからである。このような設立当初の目的を継ぐ教育的・啓蒙(けいもう)的な展示こそがこの美術館の大きな特色で、教育と来館者サービス部門の活動が充実しているのも、それゆえであろう。また、1960年に創設された保存科学部門も主導的な地位を獲得している。膨大な収蔵品のうち、イギリスとそのほかのヨーロッパ諸国、そして北アメリカのものは、「彫刻・金工・陶磁器・ガラス」「家具・テキスタイル・衣服」「言語とイメージ(版画・素描・絵画・写真・本)」の3部門で管理される。最後の部門は、美術図書室やプリント・ルームも運営し、専門化・細分化する一般の関心にこたえている。素材別に分かれた上記の三つの部門とは別に、中東、南、南東、極東と分けられたアジア部門がある。また分館として、コベント・ガーデンにある演劇博物館や16世紀以来の玩具を集めた児童博物館(前身は、分館であったベスナル・グリーン美術館)、ウェリントン侯爵旧邸であるアプスレイ・ハウスの3施設を運営している。

 展示は本館と別館の2か所に分かれる。後者は、前述の万博の功労者であり初代館長でもあった人物の名を冠してヘンリー・コール・ウィングとよばれ、バーン・ジョーンズやコンスタブルの作品などに代表される絵画や版画、素描、写真を展示している。一方本館ではラファエッロが教皇レオ10世の命を受けて制作した7枚のタペストリーの下絵(320センチメートル×400センチメートル)やベルニーニの『ネプチューンとトリトン』が名高い。また近代デザインの始祖ウィリアム・モリスがフィリップ・ウェッブやバーン・ジョーンズと共同で装飾した、創建当時のグリーン・ダイニングルームも残っている。建物の多くは、増築分も含めてビクトリア朝の様式をよく伝えているが、2005年にはポーランド出身の建築家ダニエル・リベスキンドの設計により、デコンストラクティビズム(脱構築主義)的な螺旋(らせん)状の増築部分が完成する。

[保坂健二朗]

『前田正明編『世界の博物館7 ビクトリア王室博物館』(1979・講談社)』『佐野敬彦編『イギリスの染織 ヴィクトリア&アルバート美術館』全3巻(1980・学研)』『国立西洋美術館学芸課編『イギリスのカリカチュア ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館所蔵』(1987・国立西洋美術館)』『ブレーントラスト編『英国国立ヴィクトリア&アルバート美術館展』(1990・展覧会カタログ委員会)』『エリザベス・エスティーヴ・コール他著、田辺徹訳『ヴィクトリア&アルバート美術館 SCALA/MISUZU美術館シリーズ8』(1992・みすず書房)』『肥塚隆編・訳『インド宮廷文化の華 細密画とデザインの世界 ヴィクトリア&アルバート美術館展』(1993・NHKきんきメディアプラン)』『『英国のモダン・デザイン ヴィクトリア&アルバート美術館展――インテリアにみる伝統と革新』(1994・NHKきんきメディアプラン)』『平山郁夫・小林忠編著『秘蔵日本美術大観4 大英図書館/アシュモリアン美術館/ヴィクトリア・アルバート博物館』(1994・講談社)』『『イギリス絵画の350年 ヴィクトリア&アルバート美術館展』『ヨーロッパ染織の美 ヴィクトリア&アルバート美術館展』(1995・NHKきんきメディアプラン)』『郡山市立美術館・平塚市美術館・ブレーントラスト編『ヴィクトリア&アルバート美術館所蔵英国水彩画100選』(1999・「ヴィクトリア&アルバート美術館所蔵英国水彩画100選」カタログ委員会)』

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