改訂新版 世界大百科事典 「ビルマ族」の意味・わかりやすい解説
ビルマ族 (ビルマぞく)
Burman
自称はバマーBama。シナ・チベット語族のチベット・ビルマ語派に属する言語を話す民族で,ミャンマー(旧ビルマ)総人口の約70%を占める。国内の周辺部では南西海岸でアラカン,南東海岸でタボイ,ベイ,東部山地でインダー,タウンヨー,ダヌ,西部でヨーなどの方言が話されている。ビルマ族は人類学的にはモンゴロイドに属し,頭髪は直毛で黒く,皮膚は茶褐色をしている。おもな居住地は,イラワジ川中・下流の平地とその支流チンドウィン川およびシッタウン川の流域,ならびにアラカン,テナッセリムの両海岸などで,そのほとんどが農業を営んでいる。先祖は,太古,ヒマラヤ山脈の北側に住んでいたとみられ,民族移動の結果,メコン川,サルウィン川の上流地方を経て,9世紀の中ごろピュー族国家が滅亡して人口希薄となったイラワジ平野に進出した。それまで騎馬民族であった彼らは,平地進出後,先住民族の影響で農耕民族に変わった。平地に居住している関係で,集落は塊状または線状に形成されていることが多い。塊状集落は内陸部によく見られ,幹線道路から内側に入り込んだ所に設けられている。集落の外周には有棘植物が植えてあり,外部からは簡単に侵入できない構造になっている。線状集落は河川沿いや海岸地方に多い。人家にはたいてい庭があり,その外側に垣根が張り巡らされて外部と区別されている。家屋は基本的には木造で,通常平屋建てである。床は地面から50cmから2mくらいまでの高床式で,屋根は普通切妻になっている。建築素材は,柱や梁,桁などの骨組みに木の柱か丸竹を使い,壁や床は割り竹を編んだ竹むしろか板,屋根はニッパヤシ,竹むしろ,茅などでふかれている。雨量の多い海岸地方での耐久年数は最大3年間,雨量の少ない内陸部ではもっと長い間もつが,材質の関係で火災には弱い。
ビルマ族の生業は農業が中心で,どこでも水田耕作が行われている。海岸地方では天水での栽培が可能だが,内陸部では灌漑が必要となる。耕作には牛または水牛が2頭立てで使用される。農村の食事は1日3食だが,都市では朝と晩の2食が普通である。主食の米の炊き方は,沸騰したおもゆを途中で捨てる湯取法で,できあがったご飯には粘り気がない。これは,はしを使わずに直接手で米飯をつまむ食べ方と関係がある。副食物は,野菜のすまし汁,漬物,魚または肉を油でいためたものなどで,鶏肉や豚肉はよく使われるが,牛肉を口にしない人が多い。調味料には,魚やエビ類を塩漬けにして発酵させた魚醬が使われる。衣類は,上半身がシャツあるいはその上から着る上着(エインジー),下半身は男女とも筒状の布(ロンジー)を着用する。正装のときには椀形の布製の帽子(ガウンバウン)をかぶるが,普通は帽子はかぶらない。地方では,直射日光を避けるために厚地のタオルをターバンのように巻く人が少なくない。
執筆者:大野 徹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報