改訂新版 世界大百科事典 「ピアソン報告」の意味・わかりやすい解説
ピアソン報告 (ピアソンほうこく)
Pearson Report
1969年に発表された発展途上国の援助問題に関する包括的な報告書。世界銀行の委嘱を受けた,元カナダ首相L.B.ピアソンらが中心となった〈国際開発委員会(ピアソン委員会)〉が,約1年間の調査活動の結果とりまとめたものである。《Partners in Development》として出版された。
これは1950年代初めから約20年間の開発に関する経験が積み重ねられ,その後の20~30年間に発展途上国が自立化するという展望がもたれるに至った時点において,経済援助政策について考慮すべきすべての問題点を網羅し,かつ将来にむけての援助供与の指針を明確にした重要な国際的報告書である。この答申を受けた世界銀行は言うに及ばず,多くの国際機関や先進国政府がこの報告書に盛られたもろもろの勧告を真剣に検討し,その実行について努力を続けた。この報告書では,(1)過去20年間の開発成果とそこで果たした援助を高く評価する,(2)将来の課題を展望し,援助の必要性を力説する,(3)こうした観点に立って,1960年代末における〈援助の危機〉に焦点を合わせ,その量と質の両面における改善を強く訴える,という論理がとられている。そのことの必要的結果として,(1)開発の総体的戦略のなかでとくに援助を重視する,(2)その援助を供給する先進国側に,問題の解決を鋭く迫る,という立場がとられている。
しかし,発展途上国の対先進国輸出に関しては,先進国の輸入政策が特恵の供与や産業調整への言及を含んで重視され論じられてはいるものの,発展途上国の経済発展を貿易との関連でとらえ,経済援助をこれに結びつけていくという意味で,実物的な財の流れと資金的な援助の流れを統一的に把握し,その相互関係を明らかにするという視点はみられない。
→経済協力
執筆者:村上 敦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報