フランス・ルネサンスの彫刻家。父に彫刻の手ほどきをうける。初期の作品は残らないが,アネ城やフォンテンブロー宮殿などの造営に参加したとも推定されている。1558年にはフィリベール・ド・ロルムの監督下にサン・ドニ修道院教会に作られた〈フランソア1世の墓〉のための彫像について支払をうけているが,現存しない。59年アンリ2世の死にあたって,王妃カトリーヌ・ド・メディシスの命によってプリマティッチョがデザインした〈アンリ2世の心臓の記念碑〉のために,頭上に心臓容器をささげもつ三美神(もしくは三対神徳)像を制作(1561-62)。長身の女性像のプロポーションにはフォンテンブロー派の影響が認められる。さらに61年以降プリマティッチョの監督下にサン・ドニのバロア礼拝堂に安置する〈アンリ2世とカトリーヌ・ド・メディシスの墓〉の制作に参加,古典古代風に建てられた墓室内部の大理石による裸形死屍横臥像(トランシ),屋上にひざまずく青銅着衣祈念像(プリアン)の2種の墓像,さらに青銅美徳像,大理石浮彫の一部も制作した。死者を生前と死後の二相で表現する中世末以来のフランス墓像彫刻の伝統に従いながら,王の容貌や姿態の表現に写実性の深まりを示す一方,王妃のトランシでは古典古代風のビーナスの姿態を範例とする新たなルネサンス的構想を導入している。70年代よりパリに工房をもち活動するが現存する作品は少ない。〈バランティーヌ・バルビアーニの墓〉(1574年以後注文)はこの時期に属し,墓像はルネサンス的な若く美しい着衣女性像と中世末期的なトランシ浮彫で二重に表現されている。80年代にはバロア礼拝堂のための大理石彫刻をいくつか(《復活のキリスト》など)制作しているが,この期の代表作は〈ルネ・ド・ビラーグ(バランティーヌの夫)の墓〉(1584)で,青銅のビラーグ祈念像が現存する。頭部や手にみられる写実性と衣襞表現の示すモニュメンタリティーがそこでは巧みに結合されている。
執筆者:冨永 良子
ピランのメチレン基-CH2-をカルボニル基C=Oで置換した複素環式化合物。カルボニル基の位置によってα-ピロンとγ-ピロンの2種の構造異性体がある。α-ピロンはクマリンcoumalinともいい,一種のラクトンである。融点5℃,沸点206~207℃。これにベンゼン環が縮合したベンゾ-α-ピロンはクマリンcoumarinといい,植物界に広く存在している。γ-ピロンは,水,エチルアルコールに溶けやすい吸湿性結晶で,融点32℃,沸点119℃(35mmHg)。ベンゾ-γ-ピロンをクロモン,ジベンゾ-γ-ピロンをキサントンといい,いずれも重要な黄色植物色素の基体である。ピロン環には弱い芳香族性があり,アンモニアと反応してピリドンとなる。
執筆者:竹内 敬人
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
エリス出身の古代ギリシア懐疑派の創始者。ピュロンともいう。彼の思想によってピロニズム(ピュロニズム)という懐疑論の呼称が生まれた。当時の哲学者、学派の見解の対立、およびアレクサンドロス大王死後の政治的・社会的混乱、新しい習慣と法律の登場がその背景にあった。(1)ものの本性は何か、(2)われわれの態度はどうあるべきか、(3)その結果は何であるか、の問いをたてた。相互に矛盾する感覚経験があるとおり、われわれはものの本性それ自体を知るのでなく、その現れを受容するだけである。そこで、ものについての判断を中止すべきであり、そこから何事が起こっても心の平静を保ち、なにものにも心を煩わされないことが帰結する。ピロンはこの平常不動心を知恵とよび、そこに人生最終目標としての幸福を据えた。そして自分の哲学に従って静かで穏健禁欲的な生涯を過ごした。弟子のティモンによって懐疑主義の生きたモデルとして描かれた。したがって彼の懐疑論は、後のアカデメイア懐疑派のように理論的・弁証論的でなく、本質的に生き方、人生態度であった。
[山本 巍 2015年1月20日]
ピロン
(C5H4O2, 分子量 96.1)
α-ピロン(2-ピロン)
融点 5℃
沸点 206~207℃
比重 1.1880(測定温度22℃)
屈折率 (n) 1.5277
γ-ピロン(4-ピロン)
融点 32℃
沸点 119℃/35mmHg、215℃/742mmHg
比重 ―
屈折率 ―
6員環内に酸素原子1個をもつ複素環式化合物で、α(アルファ)-ピロンとγ(ガンマ)-ピロンの2種類が知られている。
α-ピロンは、2-ピロンともよばれ、無色の液体で水に溶ける。γ-ピロンは、4-ピロンともよばれ、吸湿性をもつ無色の結晶で、水、エタノール(エチルアルコール)、エーテルなどの溶媒によく溶ける。ピロンをアンモニアと反応させると、酸素が窒素(NH基)により置換されてピリドンになる。この反応で2-ピロンからは2-ピリドン、4-ピロンからは4-ピリドンができる。2-ピロンおよび4-ピロンにベンゼン環が縮合した誘導体であるクマリン、クロモン、キサントンなどは天然に存在し、香料や色素として知られている。
[廣田 穰 2015年7月21日]
フランスの彫刻家。パリ生まれ。1560年代初頭からフォンテンブローに滞在していたと考えられ、アンリ2世のための『三美神』(1561、ルーブル美術館)にみられる優美なプロポーションは、1532年以後フォンテンブロー宮造営に参画したイタリア人画家プリマティッチオの芸術の特徴を受け継いでいる。廟(びょう)上に故人生前の着衣肖像彫刻を、その内部に横臥(おうが)像で裸体の死者を表現するという、16世紀フランスに始まる墓碑型式は、ピロンの『アンリ2世とカトリーヌ・ド・メディシスの墓碑』(1563~70、サン・ドニ修道院聖堂)と『バランタン・バルビアーニの墓碑』(1583、ルーブル)で頂点を迎える。死者の姿をリアルにうつしながら、理想化が認められ、尊厳な表現になっている。また『復活のキリスト』群像は、彼のミケランジェロへの傾倒を明らかにしている。肖像彫刻、メダルも制作した。
[上村清雄]
C5H4O2(96.09).ピラノンともいう.α-ピロンとγ-ピロンの2種類が存在する.【Ⅰ】α-ピロン(2-ピロン):クマリン酸の水銀塩を加熱脱炭酸してつくる.融点5 ℃,沸点206~209 ℃.1.200.1.5277.水に可溶.アルカリ存在下では容易に開環して,ホルミルクロトン酸となる.【Ⅱ】γ-ピロン(4-ピロン):コマン酸(4-ピロン-2-カルボン酸)またはケリドン酸の乾留により得られる.無色の結晶.融点32.5 ℃,沸点215 ℃.吸湿性で,水,エーテル,クロロホルム,酢酸に易溶,石油エーテル,二硫化炭素に難溶.アルカリで黄色を呈し,加熱するとギ酸とアセトンに分解する.両化合物はアンモニア,第一級アミンの作用でピリドンを与える.また,ハロゲン化,ニトロ化などでは,付加反応よりも置換反応が起こる.γ-ピロンのカルボニル基は,ヒドラジンやヒドロキシルアミンとは反応しない.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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