ダブル・リードを用いて鳴らす管楽器の一種。その名は束(たば)の意で,形や大きさの異なる木片を寄せ集めたような外観に由来し,別名のバスーンbassoonは,バソンbas son(フランス語で〈低音〉の意)またはバッソーネbassone(イタリア語で〈低くて大きいもの〉の意)から来たと考えられる。徐々に管径が広がる〈円錐管〉で,全長2.5m以上あるが,その途中をU字状に折り返してあるため,楽器の長さは1.3~1.4mほどにおさまっている。17世紀中葉のフランスで,カータルとかドゥルツィアンなどと呼ばれる楽器をもとにして作られたが,その際に長い筒先が加えられたことと,木部を4部分に作っておいて使用時に組み立てるようにしたことから,丸太のように単純な外観だった前身楽器とは違う姿となった。音色に派手さはないにもかかわらず,主要な木管楽器の一つとして早くから定着した一因は,ダブル・リード特有のあくの強さを残しながらも,室内演奏に加わってもおかしくないだけの繊細さと適応性をもち,合奏の低音や中音を充実させるのに有効な楽器だったことにあると思われる。今日,古風な点の残るフランス式と,19世紀中期の改良によって音の安定がよいドイツ式とがあり,後者が優勢で,その使用者がフランスにおいてさえ増えている。しかし,フランス式の音のコントロールの難しさを克服しえた際の優美さや表情の豊かさは格別で,現代の名演奏家のなかでも支持が根強い。ファゴットの活躍の場は管弦楽や吹奏楽,ときに室内楽と,おもに合奏であり,派手な存在とはいい難いが,ビバルディ,モーツァルト,C.M.vonウェーバーらの協奏曲をはじめ,独奏曲もある。最低音は下1点変ロ,音域は3オクターブ半と非常に広い。低音域の音色や性格を端的に示す例を有名曲に求めれば,チャイコフスキー《悲愴交響曲》冒頭や,プロコフィエフ《ピーターと狼》(おじいさん役)など,高音域についてはストラビンスキー《春の祭典》冒頭や,ラベル《ボレロ》などがある。
同族楽器で,音域が1オクターブ低いコントラファゴット(ダブル・バスーン)は大編成の際などに用いるほか,ラベルの《マ・メール・ロア》のなかの野獣の声のように,怪異な効果にも利用できる。
執筆者:北爪 利世+関根 裕
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ダブルリードの気鳴楽器の一種。バスーン(英語ではbassoon)ともよばれる。円錐(えんすい)管を基本とする木管楽器で、通常B♭1~F5の音域をもち、木管群の低音楽器としてオーケストラで重要な役割を果たしている。
管の全長は2.54メートルだが、2本の管を束ねたような形にして楽器自体の長さは1.3メートルほどになっている。オーボエやイングリッシュ・ホルンよりも大型のダブルリードを金属製の吹き込み管(クルック)に取り付け、これを本体につなぐ。クルックにはごく小さい孔(あな)が本体に近いほうにあけてあり、これによってオーバーブローを容易にしている。現在の楽器は、本体を四つに分解できる。クルックのつくほうから順に、ウィング・ジョイント、ダブル・ジョイント、ロング・ジョイント、ベル・ジョイントである。ウィング・ジョイントは、指孔のうち三つを斜めにあけるために管壁の一部が分厚くなっている。これは、垂直にあけると指が届かなくなるためである。ダブル・ジョイントは2本の管が通っており、その2本が下端で金属のU字管によってつながれている。そしてその上から、U字管を保護するために金属のカバーがつけられている。この二つのジョイントにキーが集められており、左手でウィング・ジョイント、右手でダブル・ジョイントの指孔とキーを開閉する。多くのキーが両親指に割り当てられている。管の内径は徐々に大きくなり、ロング・ジョイント、ベル・ジョイントへと広がっていく。本体の木はカエデを用いるのがもっとも一般的である。
この種の楽器はかつては5種類あったが現在では2種類で、前述のファゴットのほかにコントラ・ファゴットがある。これはファゴットよりも1オクターブ低い音域の楽器で、基本構造はファゴットと同じだが、さらに長い管を必要とするため、操作しやすいように何重にも折り曲げた形になっている。
[卜田隆嗣]
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