(読み)フ

デジタル大辞泉 「ふ」の意味・読み・例文・類語

ふ[助動]

[助動][は|ひ|ふ|ふ|へ|(へ)]動詞未然形に付く。動作作用反復・継続を表す。ずっと…しつづける。よく…している。しきりに…している。
「つれもなき佐田さだ岡辺をかへに帰りば島の御橋みはしたれか住まむ」〈・一八七〉
[補説]「ふ」は奈良時代特有の語で、まれに下二段活用として用いられる。また、主にラ行動詞に付くときは、「移ろふ」「誇ろふ」のように未然形語尾のア列音がオ列音に変わることがある。平安時代以降「移ろふ」「交じらふ」など特定の動詞に付き、接尾語化した。

ふ[五十音]

五十音図ハ行の第3音。両唇の無声摩擦子音[Φ]と母音[u]との結合した音節。[Φu]
平仮名「ふ」は「不」の草体から。片仮名「フ」は「不」の初2画から。
[補説](1) 「ふ」は、奈良時代以前には[pu]であったかともいわれる。(2) 「ふ」は、平安時代半ば以後、語中語尾では、一般に[u]と発音されるようになった。これらは、歴史的仮名遣いでは「ふ」と書くが、現代仮名遣いでは、すべて「う」と書く。(3) 書名別項。→

ふ[接尾]

[接尾]動詞の未然形の下に付いて四段活用動詞をつくる。もと、上代に用いられた反復・継続の意を表す助動詞「ふ」で、平安時代以降、特定の動詞にしか付かなくなり、接尾語化したもの。その特徴的な意味も失われている。「語らふ」「住まふ」「慣らふ」「はからふ」「向かふ」「呼ばふ」など。
[補説](1) 現代語でも、「住まう」「語らう」などの「う」にその痕跡が見られる。(2) 「流らふ」「伝たふ」「寄そふ」など、下二段活用動詞「流る」「伝(つ)つ」「寄す」に付いた「ふ」があり、これらは下二段型活用である。

ふ[書名]

ねじめ正一詩集。昭和55年(1980)刊行翌年、第31回H氏賞受賞。

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精選版 日本国語大辞典 「ふ」の意味・読み・例文・類語

  1. [ 1 ] 〘 助動詞 〙 ( 活用は「は・ひ・ふ・ふ・へ・へ」。四段活用動詞の未然形に付く ) 反復、継続の助動詞。
    1. その動作が反復して行なわれる意を表わす。しきりに…する。何回も繰り返して…する。
      1. [初出の実例]「をとめの 寝(な)すや板戸を 押そぶら(ヒ) 我が立たせれば」(出典古事記(712)上・歌謡)
      2. 「秋萩の 散ら(ヘ)野辺初尾花 仮廬に葺きて」(出典:万葉集(8C後)一五・三六九一)
    2. その動作が継続して行なわれる意を表わす。…し続ける。ずっと…する。
      1. [初出の実例]「楯並めて いなさの山の 木の間よも い行き目守(まも)(ヒ) 戦へば」(出典:古事記(712)中・歌謡)
    3. その変化がずっと進行していく意を表わす。次第に…する。どんどん…していく。
      1. [初出の実例]「常なりし 笑(ゑ)まひふるまひ いや日異(け)に 変はら(ふ)見れば 悲しきろかも」(出典:万葉集(8C後)三・四七八)
  2. [ 2 ] 〘 接尾語 〙 ( 活用、接続の仕方、ともに[ 一 ]に同じ ) [ 一 ]で説く助動詞としての特徴的な意味が失われて、特定少数の動詞に形式的についているもの。「語らふ」「向かふ」「住まふ」「慣らふ」など。

ふの語誌

( 1 )語源は、動詞「ふ(経)」と関連づける説もあるが、動詞「あふ(相・合)」で、本来、動詞の連用形に接したものとすべきであろう。「万葉集」などでは「相・合」の字を用いていることも多く、また、動詞「あふ」との複合した形と区別できかねるものもある。
( 2 )動詞の表わす作用の発現の様態にかかわるものであり、動詞に密着して、間に他の助動詞などを入れることがない。それで接尾語として扱う説もある。
( 3 )「移ろふ」「よろほふ」など、動詞の語尾がオ列音に変わっている例も多い。
( 4 )「流らふ」「伝ふ」「よそふ」など、下二段活用動詞「流る」「伝(つ)つ」「寄す」に「ふ」が付いたと思われる例がある。ただし、これらの「ふ」は下二段型活用である。なお、「捕らふ」「押さふ」などにも下二段型活用をする「ふ」があるが、これらは、語源を下二段動詞「敢(あ)ふ」に求めることもできる。
( 5 )中古以降では、「ふ」の受ける動詞がきまってくるので、「ふ」を伴ったものを一語の動詞と見なすのが常である。上代でも、「さもらふ」「向かふ」など、まったく一語化しているとみてよいものがある。


ふ【ふ・フ】

  1. 〘 名詞 〙 五十音図の第六行第三段(ハ行ウ段)に置かれ、五十音順で第二十八位のかな。いろは順では第三十二位で、「け」のあと「こ」の前に位置する。現代標準語の発音では、両唇間の無声摩擦音 Φ (両唇の接近はゆるく、往々軟口蓋と奥舌面との間の摩擦を伴い、またはこれに転ずる)と母音 u との結合した音節 Φu にあたり、これを清音の「ふ」という。これに対して、「ふ」に濁点をつけた「ぶ」は、両唇の閉鎖による有声破裂音 b の結合した音節 bu にあてられ、これを「ふ」の濁音という。また、「ふ」に半濁点をつけた「ぷ」は、両唇の閉鎖による無声破裂音 p の結合した音節 pu にあてられ、これを「ふ」の半濁音という。歴史的かなづかいでは、語中語末の「ふ」を w または o に読むことが多い。「ふ」の字形は、「不」の草体から出たもの、「フ」は、同じく「不」の初二画を続け書きにした形をとったものである。ローマ字では、「ローマ字のつづり方」(昭和二九年内閣告示)に、清音について第一表に hu、第二表にいわゆるヘボン式の fu をあげている。濁音には bu、半濁音には pu をあてる。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ふ」の意味・わかりやすい解説

五十音図第6行第3段の仮名で、平仮名の「ふ」は「不」の草体から、片仮名の「フ」は「不」の初めの2画からできたものである。万葉仮名では「布、不、否、負、部、甫、輔、府、符、浮(以上音仮名)、生、歴、經(以上訓仮名)」などが清音に使われ、「夫、扶、府、文、矛、歩(以上訓仮名)」などが濁音に使われた。ほかに草仮名としては「(不)」「(布)」「(婦)」などがある。音韻的には/hu/(濁音/bu/、半濁音/pu/)で、両唇無声摩擦音[Φ](両唇有声破裂音[b]、両唇無声破裂音[p])を子音にもつ。半濁のパ行音が音韻組織のなかに定着してくるのは、中央語では室町時代以降のことである。

[上野和昭]

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